⑥働き方のバズワード! 「ソーシャルキャピタル」「パーパス」って?

【ワークスタイル大辞典】第6回 働き方のバズワード! 「ソーシャルキャピタル」「パーパス」って?

新しい働き方を考える上では、働き方を取り巻く考え方や概念をアップデートすることも重要です。この章では、2019〜2020年ごろになって日本で話題になるようになった、働き方に関連する海外の概念をご紹介します。

連載企画【ワークスタイル大辞典】

ソーシャルキャピタル

ソーシャルキャピタルとは

ソーシャルキャピタル(「社会的資本」「社会関係資本」)とは、信頼や規範、ネットワークなど、社会や地域コミュニティにおける人々の相互関係や結びつきを支える仕組みの重要性を説く考え方のこと。「物的資本」や「人的資本」と並ぶ、新しい概念として定義されています。

アメリカの政治学者ロバート・パットナムが『信頼・規範・ネットワークが重要な社会的仕組みの中では、人々が活発に協調行動をすることによって、社会の効率性を高めることができる』と提唱し、それがソーシャルキャピタルの概念となりました。

ソーシャルキャピタルの重要性

ソーシャルキャピタルが醸成されている企業の職場内では、

  • 同僚から自発的に手助けが得られる関係
  • 職場内で自身の状況を正しく理解してもらえる関係
  • 職場ルールを正しく共有できている関係
  • すみやかに意思の疎通ができる関係

などを築くことができ、従業員同士の連携が強化されることで、組織を円滑に運営するためのインフラとして機能します。

また、ソーシャルキャピタルは離職率の低下にも有用です。「職場の人間関係」を理由に退職する人も多い中で、ソーシャルキャピタルが形成されている職場では、人間関係を理由とした退職も食い止めやすくなります。

ソーシャルキャピタルは、以前から「人脈」や「協調性」「チームワーク」と表現されてきたものが、ビジネスの場で再評価された概念です。企業や組織にとって有益に働く「ソーシャルキャピタル」は、時代を問わず、どのような業界・業種の企業であっても重要と言えるでしょう。

ソーシャルキャピタルを形成するには

ソーシャルキャピタルは「人と人とのつながり」が基礎にある以上、何かひとつの取り組みを実施したからといってすぐに効果が出るものではありません。

また、取り組みの成果も、数値的に評価するのが難しいもの。企業内のソーシャルキャピタルの形成に取り組む上では、短期的な成果を求めるのではなく、長期的なビジョンや理念を描く必要があります。

ここでは、ソーシャルキャピタルを形成するにあたり、企業側でできる施策をいくつかご紹介します。

ジョブローテーション

定期的な部署異動・職務の変更を通じて、社員にさまざまな業務を経験させながら能力開発を行う制度のこと。

一定の期間で部署や職務を異動することで、社内で行われている多様な業務を理解し、幅広い知識と経験を身につけられます。また、部署を超えて、従業員同士がお互いの性格や特性を理解し合える助けになります。

メンター制度

特に新人に対して、直属の上司とは別に、相談役のスタッフ(「メンター」)を配置する制度のこと。

年齢の近い先輩社員がメンターを担当し、業務に関わること以外に、メンタル面での相談にも対応します。

定期面談(1on1)

上司が部下に対して行う、人事評価とは切り離された短時間の個人面談のこと。

定期的なコミュニケーションの機会を設け、時には気軽な雑談も交えながら部下の現状を聞き、その内容にフィードバックします。部下の報告に対して評価や叱責はせず、傾聴することが基本です。

部下の成長やモチベーションの向上が本来の目的ですが、上司と部下の距離感が自然と縮まって、お互いに親しみを覚えるようになるという効果もあります。

「場」から形成する

また、制度面だけでなく、「場」からソーシャルキャピタルを形成することもできます。

オフィスのレイアウト変更やオフィス移転によって、従業員が気軽にコミュニケーションを取りやすいフリースペースを用意したり、お互いに顔が見えるようなデスク配置にしたりするなど、従業員同士の人間関係の幅を広げるために有効です。

レイアウト変更や移転が難しい場合には、席替えを定期的に実施するだけでも、従業員が新たな人間関係を築く上での助けになるかもしれません。

パーパス

パーパスとは

ビジネスシーンにおける「パーパス(purpose)」とは、企業の最も根本的な存在意義や、究極的な目的のこと。企業が困難な状況に遭遇したり、あるいは岐路に立たされたりしたときにも、揺らぐことがない軸と位置づけられています。

「パーパス」には、以下のようないくつかの特徴があります。

  • 強みや想い、歴史といった「自分たちらしさ」が凝縮されていること
  • 顧客や社会へのインパクトなど、社会性を含んでいること
  • 社内外に共鳴し、ともにエネルギーを創出するものであること

ミッション・ビジョンとの違い

「パーパス」が「なぜそれをやっているのか(Why)」に対する答えであるのに対して、「ミッション」は、パーパスの実現に向けた戦略・行動指針を指します(「何をやるのか(What)」)。

さらに、パーパスを実践していく中で、自分たちが目指す場所やあるべき姿が「ビジョン」になります(「どこに向かうのか(Where)」)。

このように、パーパスからミッションが導かれ、その結果としてビジョンがもたらされます。パーパスがなければ、一貫性のある戦略が描けず、企業の意思を浸透させることも難しいのです。

パーパス経営・パーパスブランディング

近年、「パーパス経営」「パーパスブランディング」という手法を耳にするようになった方も多いのではないでしょうか?

「パーパス経営(ブランディング)」とは、企業の根源的な存在理由である「パーパス」を社内外に認知してもらうことで、多くの共感を獲得するという、経営やコーポレートブランディングの手法を指します。

上辺のメッセージではなく、パーパスに基づく企業のメッセージに共感した消費者は、商品やブランドに対して高い価値を感じてくれます。同様に従業員も、自社で働く意義や魅力を強く感じるようになるとされています。

これまでのブランディングは、消費者の価値やメリットに焦点が当てられ、社会における存在理由や存在意義が定義されることもなく、ほとんど重きが置かれていませんでした。

パーパス経営(ブランディング)の手法では、後者を明確に定義し、消費者の共感を呼び集めることにより、ブランドに対する中長期的な信頼感や愛着を醸成していこうとします。

パーパス経営に取り組む企業の事例

ソニー

ソニーは、2018年4月にCEOに就任した吉田憲一郎氏が、Sony’s Purpose & Value(「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」)を発表。日本でいち早くパーパス経営を掲げました。

音楽や映画、ゲーム、アニメなどのエンタテインメント事業や、エレクトロニクス事業、金融など、多岐にわたるグローバル事業を展開する企業グループであるソニー。世界約11万人の全社員が、同じ長期視点を持って価値を創出していくためには、共通認識が必要でした。

味の素

味の素のかつての企業ビジョンは、経営トップ層にすら浸透しておらず、危機感を覚えた同社はパーパスに関する議論を開始し、「Ajinomoto  Group Shared Value(ASV)」を確立しました。

従業員一人ひとりがASVの考え方と重要性を理解し、実践していくために、「ASVアワード」(革新性・独創性のある事業活動を通じて、社会価値と経済価値を共創した取り組みを表彰する制度)を設置。パーパスの確立後、浸透を目指すための施策として参考になります。

次章では、従業員の幸福や働きやすさを実現するための施策をご紹介します。