【前編】シェアリングサービスで境界を超えるガイアックス ――”Nagatacho GRiD”の心地よい曖昧さの正体

 

Vol.2 株式会社ガイアックス

東京都千代田区平河町2-5-3 永田町GRiD

 

「人と人をつなげる」。これが、株式会社ガイアックスのミッション。ソーシャルメディアとシェアリングエコノミーに注力し、法人向け・一般消費者向けに価値ある事業を展開する同社の根底には、「自分の人生は自分で決める」という考え方が根付いています。
リモートワークや裁量労働などで、一社にとらわれない自由な働き方を実践するメンバーも多数。複業も奨励するガイアックスは、社会の課題を解決する事業やサービスで起業する卒業生も多く、スタートアップスタジオとしても有名です。

 

 

いま、ガイアックスのことを語るときに欠かせないのが「Nagatacho GRiD」。2017年1月、ミッション実現のために一棟のビルを改装して創り出されたガイアックスの本社オフィスであり、あらゆる場面でシェアが体感できる、すべての人に開かれた場所です。
Nagatacho GRiDを、ただのシェアオフィスとは呼べません。オフィススペースのほか、この記事で紹介するほとんどすべてのスペースが「シェア」を軸に創られています。人と人がつながり、お互いにリソースをシェアすることで、より多くのベネフィットが生まれる。そんなガイアックスのミッションとカルチャーに共感する、多様なバッググラウンドや価値観をもった人が集まってできた「Gaiax Community」の総体が、Nagatacho GRiDであるといえるでしょう。

 

 

 

ここに初めて訪れたとき、人と人のあいだに境界がなく、心地よい曖昧さの中にいるのを感じました。Nagatacho GRiDのこの雰囲気がどのように醸成されているのか、まずはオフィスプランニングの視点から聞きました。

 

 

“フリーでフラットでオープン”なコミュニティのつくりかた

――”コミュニティは、コミュニティで創ったほうがいいと思います。だれかひとりのデザインではなく、みんなで創る。”

 

株式会社ガイアックス ブランド推進室 ブランディングディレクター Davydova Nataliaさま

 

―― Nagatacho GRiDのオープンまでに、苦労はありましたか。

苦労は、たくさんありました(笑)。2016年、ガイアックスのブランディングキャンペーンの中で、新しいオフィス――というより、”遊び場”を創ろうという話が持ち上がったんです。戦略企画上「いつ」という期限はありませんでしたが、そのタイミングですごく素敵な建物(後にNagatacho GRiDとなる古いビル)を見つけました。どうしてもそこに引っ越したいという想いが大きくなり、その場で物件に申し込むかどうか決めなければいけなかった事情もあり、心の準備がまったくできないまま移転を決めました。

 

 

とにかく早く移転しないといけないけれど、ビルは廃墟状態。急いで進めて、なんとか9ヶ月でこのオフィスを創り上げました。当初は内装デザイン会社と付き合って一緒にやることにしましたが、うちのやりたいこととあまりにも違ってしまったので、いったん別れて全部自分たちで創り上げることにしました。時間も予算もそんなになかったから、半分以上はDIYで創ったビルです。

 

築古ビルは、一棟まるまる大胆にリノベーションされたことで、Gaiax Communityの世界観を全体で表現したオフィスとして再誕。

 

 

―― オフィスプランニングチームは、どのように組織したのですか。

堅い意味での「組織」というものは、うちの会社にはほとんどありません。Nagatacho GRiDのプランニングにあたっては、いろいろな部署から必要なノウハウをもっている人を集めました。たとえば、プロジェクトマネージャー、お金まわりの管理がうまい人、ネットワークやセキュリティ関係がわかる人、デザイナーなどなど。10人ぐらいのチームを組んで、やりたいことをポストイットで貼ったり問題を解決したり、毎日ミーティングを重ねながらプロジェクトを進めました。

 

 

もちろん、私たちが勝手に決めたことは一切ありません。どういうものを創るか、どういう設備がいいか、すべてひとりひとりの従業員に聞いてから決めました。たとえば、「子どもを連れて行きたい」という意見からキッズルームが生まれ、「外で気分転換したい」という声からテラスと屋上ができました。ほかにも、「眠る場所がほしい」「マッサージルームがほしい」など色々あって、それらをすべて聞いた上で実行に移しました。

 

子ども連れの出勤も安心できる、ガラス張りのキッズルーム。最近になって、Nagatacho GRiDに新たに加わった子ども用品のメーカーのプロダクトが導入されたそう。

 

各フロアに名前が付いているNagatacho GRiD、屋上テラスは「CLOUD9」。ちなみに、この可愛いキャラクターのビル内の壁の至るところで見つけられる。

 

ウッドデッキに張られたシェードの陰で仕事をする人の姿も。

 

 

―― 「Nagatacho GRiD」というネーミングのもつ意味を教えてください。

 

 

“grid”には、編み目のようにつながっているものという意味があります。そこから、「人と人がつながる場所」というイメージを持たせました。Nagatacho GRiDは、最初はガイアックスの従業員のための遊び場でしたが、すべての人へ開放することによってみんなでシェアする場所へと発展しました。

ガイアックスはシェアリングエコノミーに注目しており、「すべてのものをシェアすればするほど、みんながハッピーになる」という考え方があります。私たちの遊び場すらもシェアするというコンセプトをもとに、ここNagatacho GRiDは人と出会ったり、チームを組んだり、プロジェクトを進めたりする場所になっていきました。実際、私たちがこのオフィスを開放してから色々な人が訪れるようになり、新しい社員やパートナー、取引先を見つけることができるようになりました。

 

 

―― 人が集まりやすいワークスペースにするために、心がけたことは何でしょうか。

 

2F BASE では、水曜日以外の平日のお昼、集まった人たちと美味しいランチを楽しむことができる。

 

人が集まるには、「食」が重要です。食べないと仕事にも集中できなくなるので、食事ができるスペースは多く設けました。ラウンジでは毎日コミュニティランチをやっていますし、この建物の中では基本的にどこで食事をしてもOKです。冷蔵庫や電子レンジ、食器などもすべてのフロアにあります。また、コーヒーやお茶のメーカーに商品を販売してもらうなど、さまざまなフード企業と協力してサービスを提供しています。

 

1Fの tiny peace kitchen は、ガイアックスが運営する家庭料理カフェ。明るく開放感のある空間で300円からコーヒーを楽しむことができるほか、こだわりのワンメニューで営業するランチはホッとする美味しさ。

 

この日のメインは、本格的なタンドリーチキン。ごはんは雑穀米をチョイス。副菜とお椀も、心とからだが元気になる味だった。

 

足を崩してゆったりと寛ぐことのできる小上がり席も。tiny peace kitchen は、トークイベントやワークショップなどのスペースとして貸切もおこなっている。

 

 

―― ガイアックスの大事なカルチャーのひとつに、「フリー・フラット・オープン」というものがありますよね。このオフィスでは、それをどのように表現しましたか。

 

 

いちばんに、”入りやすさ”です。だれでもパッと入れて、居心地のいい場所と感じることができ、「またここに来たい」という気分になってほしいと思いながらこの場所を創っています。

最近のシェアオフィスやコワーキングスペースは、メンバーズオンリーのような特別なデザインの空間が多いですが、Nagatacho GRiDは真逆です。ちょっとラフな感じで、ある部分はDIY! しかも、起業家からお母さんまで、幅広いバックグラウンドの人たちが集まっています。だから入りやすいんです。知らない人がいても、だれもなにも言いません。ほんとうにフラットで、たとえばそこにいるのがガイアックスの人かそうでないかは分かりません。

 

ここにいるのは、ガイアックスに所属する人? それとも社外の人? ――関係なく全員、「Gaiax Communityのメンバー」。

 

 

―― たしかに、初めてこちらに訪れたとき、ほかのビルやオフィスで感じるような外部の人間に対する視線がまったくないことに驚きました。同時に、「受け入れられている」という安心感がありました。

 

 

そうですね。だれにでもオープンにするということには、良い部分と悪い部分があります。やはり、安心できる場所をつくりたいので、運用方法はきちんと考えて安全を保っています。でも、ここに来る人に対して、なるべく差別はしません。だれであっても優しく仲間として受け入れて、悪いことをする人がいたら、叱るのではなく友だちになってルールを教えてあげる。そういう空間が理想だと思います。

 

―― いま、市場にはコワーキングスペースがどんどん増えています。その中で、Nagatacho GRiDの立ち位置はどこにあるのでしょうか。

私たちは、コワーキングスペースをやろうとはしていません。「自分たちのオフィスを開放している」というコンセプトを、ほかの会社にも届けたいと考えています。リソースを独占して使うのは、もったいないことです。リソースをシェアすればするほど、お互いにベネフィットが増える。だから、ほかのオフィスも開放できるようになればいいなという想いもあります。

 

開放されているスペースの多さが、シェアリングエコノミーを事業とするガイアックスという会社じたいを体現している。B1Fの SPACE 0 には、バーカウンターやステージ、スクリーンがあり、カジュアルなイベントやパーティーなどに使うことができる。

 

6F ATTIC は、記者会見やセミナーなど少しフォーマルな場に向いている。

 

 

―― たとえばGRiDシリーズの第2弾があったとして、ご自身がデザインを手掛けてみたいと思いますか。

 

 

ここは、”コミュニティで創ったコミュニティ”です。すべてのアートはGaiax Communityに寄贈されますし、2Fのカフェの壁にはだれでも絵が描けるようになりました。コミュニティは、コミュニティで創ったほうがいいと思います。だれかひとりのデザインではなく、みんなで創る。そこに関わりをもつだけですぐに仲間になって、一緒にプロジェクトをやることで互いの強みが分かり、あたらしいプロジェクトやビジネスが生まれる。こういうやりかたが正しいと思います。

 

 

 

壁に描かれた額縁の中に、さらに好きなように絵を描くことができる。ここに来れば、オリジナルな空間がそこに集まる人たち自身でデザインされていく過程を楽しむことができるだろう。

 

 

ガイアックスでの働き方について、複業でキャリアを築いているメンバーに聞いた後編も公開しました。こちらからお読みいただけます。