目指す姿をデザインで表現 セルソースの「ZERO BASE」から生まれる未来

Vol.34 セルソース株式会社

東京都渋谷区渋谷1-23-21 渋谷キャスト 11F

https://www.cellsource.co.jp/

再生医療関連事業を主力事業とするバイオベンチャー、セルソース株式会社。2022年から2023年にかけて、コーポレート・アイデンティティ(以下CI)のアップデートとオフィス移転を同時進行。新しいCIを反映した新オフィス「ZERO BASE」のデザインディレクションを担当された大熊様にお話を伺いました。

デザイン戦略部長 大熊宏様

再生医療で未来を変える

――御社の事業についてお聞かせください。

私たちは再生医療等安全性確保法が施行された翌年の2015年に創業し、再生医療関連事業を行っています。医療機関様向けに脂肪組織や血液組織の加工受託サービスを提供しています。本来、細胞加工を行うには巨額の設備投資が必要ですが、弊社にご依頼いただくことでお預かりした細胞等を加工してお戻しできるため、医療機関様側で大きな設備を持たなくてよいことがメリットです。現在累計で75,000件以上の受託実績があります。

時間も場所も柔軟なワークスタイル

――御社ではどのような職種の方がどのような働き方をされていますか?

渋谷の本社は約100人が所属しており、医療機関に対する外回りの営業やそれをサポートするバックオフィスのメンバーが多く所属しています。基本的にフレックス制で11時から15時をコアタイムと定めています。その前後の勤務は各自に任せています。リモートワークも柔軟に取り入れており、勤務場所は業務内容と個人の意思で各自に任せているため、毎日出社するメンバーもいれば出社が月に2~3日のメンバーもいます。

会社の目指す姿をCIやオフィスから発信

――CIアップデートやオフィス移転が決定した経緯や前オフィスに抱えていた課題があれば教えてください。

2022年5月にPMV(Purpose/Mission/Values)を設定しました。Purposeで「Change Our Future(未来を変える)」と掲げましたが、従来のコーポレートロゴでそれを表現できるか、耐久性に疑問を持っていました。10月にHSF経営(※)という新たな経営方針を発表し、PMVと同期させ両輪をまわしていくには、コーポレートロゴを見ただけで私たちが目指す姿を理解していただけるようにCIの変更が必要だと考えました。12月に社内にプレゼンテーションを行い、2023年1月から細かな調整を行い社内リリースに至りました。

※HSF経営:同じ志を共有する仲間たちが集まって社会課題を解決し、より良い未来に変えていくための経営⼿法。Humam・Social・Futureの頭文字から。

U字磁石をイメージした新コーポレートロゴ

一方、新オフィスは2年近く探し続けていましたがなかなかしっくりくる物件が見つからずにいました。メンバーがどんどん増える中、せっかく出社しても会議室やテレブースが埋まっていて自宅に戻るメンバーがいたり、休憩スペースでも多くの人が仕事をしている状況でした。ようやく希望に合う物件に空き予定が出て、2022年11月に渋谷キャストの賃貸借契約を締結し、12月から施工会社を選定、打ち合わせを重ねました。2023年5月から入居工事を開始、7月にオフィス移転が完了しました。

CIのアップデートとオフィス移転は同時に行った方が工数やコストを抑えることができるため、弊社では今回並行して進め、2023年8月に同時にリリースする運びとなりました。同時に進行させたことでCIとオフィスそれぞれがどうあるべきかを考えることができ、色の考え方や見せ方なども変化を出すことができました。とても大変なプロジェクトではありましたが気づきやメリットが大きかったので、今後CIアップデートとオフィスづくりを同時に進められる企業様がいらっしゃればぜひおすすめしたいです。

創業の地・渋谷で4倍の面積へ

――オフィスはどのような条件でお探しになりましたか?

場所は創業の地である渋谷にこだわっていました。前オフィスは増床を重ねて複数フロアにまたがっていましたが、コミュニケーションがとりづらくなってきていたためワンフロアで約400坪を確保できる物件を探していました。

――渋谷キャストを選ばれた決め手は何ですか?

立地・面積ともに希望に合致していたことに加えて、築浅であったことと渋谷を一望できる眺望も気に入りました。渋谷キャストは前オフィスから徒歩3分程度のところにあるため場所も把握しており、募集がでればいいなと話していたため、空きが出たと聞いた際にすぐに申込させていただきました。

新しい価値をゼロから生み出す場所

――新本社「ZERO BASE」の コンセプトについて教えてください。

弊社には「ゼロベースで考える」というValueがあり、カルチャーとして根づいています。新しい価値をゼロから生み出すゼロベースという考え方と場所を表すBASEがリンクしており、私も気に入っています。

フラットで柔軟な頭でないと新しい発想やアイデアは生まれません。また、1人の力だけでもどうにもなりません。行きたくなる場所、誰かに会いたくなる場所、リアルで集まる場所として「ZERO BASE」を位置づけています。

――内装デザインにおいてこだわられた点やコンセプトが反映されたポイントはどこですか?

頭が丸くないと柔軟な発想はできないため、なるべく直線的なデザインは使わずに、0(ゼロ)や円といった丸いフォルムや流線形を意識してデザインしています。例えば、象徴的なデザインとして執務エリアの中央に円形のテーブルを設置したスペースが挙げられます。過去のオフィスにも同様のスペースがあったため、初期メンバーにとっては当時を彷彿とさせるデザインにもなっています。

執務エリアの円形テーブル上部のライトはメンバーの個性や想いが集まり渦巻くようなデザイン

また、共用部にもトリックアートのような仕掛けを用意しています。お客様がオフィスにお越しになって会議室に向かうまでに正円に見える場所があり、「ZERO BASEへようこそ」というメッセージを演出しています。

壁面に描かれている模様が…

ある地点から見ると正円に/©CellSource

エントランスにあるベンチやリフレッシュエリアにあるテーブルはコーポレートロゴのSと同じ角度で特注で制作しており、私たちの核となる考え方に皆が集い囲むような体験ができるようになっています。

 

 

PMVやHSFにも色を紐づけており、未来を変えていく様を表すためにはグラデーションしかないと思いました。大きな壁面をグラデーションが段にならないようにプリントしていただくのが大変でしたが、なんとか綺麗に形にしていただきました。

エントランスにはインタラクティブ映像を投影

サインもこだわりが 裏側をブルーにして反射させたことで社会に影響を与えていく様を表現

社内デザイナーとしての立ち回り

――社内にデザイン戦略部があることが今回の移転プロジェクトで大きな強みになったと思いますが、管理部や社外の施工会社様とどのように連携されましたか?

電気やセキュリティといったインフラは管理部にシステム担当者がいるためそちらに任せました。内装については施工会社様をコンペで選ばせていただきました。デザインは打ち合わせを進める中で変わっていくことが予想されましたので、一番コミュニケーションがとりやすく、私たちの想いを形にしていただけそうな施工会社様に依頼しました。要望をお伝えしてご提案いただく中で、時には私たちからデザインをご提案することもありました。施行会社様には再現可否や施工方法などたくさんのアドバイスをいただき感謝しています。

――内装デザインのディレクションを担当されて大熊様が一番大変だったことや苦労されたことは何ですか?

全てが想像を超える大変さでした(笑)。図面を見て詳細を決めていても現場で施行を始めてからできないことが発覚するという事態もあったため、それらをどう調整していくかという点に難しさがありました。最終的にオフィスを使うのは私たちなので、実際に使用するシーンを徹底的に考えて妥協せず進めたため、工数はたくさんかかりました。また、とても小さいサンプルを見て色や素材を選択していくのも難しさがありましたね。広い面積になったときに暗い印象にならないかなどを考慮する必要があったため苦労しました。

人気の半個室ブース/©CellSource

――新オフィスのデザインを通して社内・社外に発信したいことは何ですか?

「ここから、ゼロから。」というメッセージを社内外に浸透させていきたいと考えています。渋谷キャストはキャットストリートの起点に位置しており、理にかなった場所に移転できたと感じています。最先端のカルチャーや流行、情報が集まる渋谷から、私たちも刺激を受けて新しいアイデアや価値を一緒に生み出していきたいと考えています。どなたがお越しいただいても「ここから、ゼロから。」一緒に始めていける場所でありたいので、たくさんの方にぜひお越しいただきたいです。

 ――新オフィスの運用面の工夫や、交流・コミュニケーションを促進する社内制度がもしあれば教えてください。

リフレッシュエリア以外では食事を禁止しているため、皆がリフレッシュエリアのSの形のテーブルに集まって食事をするようになりました。他部署のメンバーと食事をとりながら話せるので交流が増えました。

リフレッシュエリアのライトは執務エリアと対称的なデザイン 息抜きできる場所というメッセージをこめて

食事の際に使える紙のランチョンマットはデザイン戦略部で制作しました。行動規範である「セルソース思考22」が1つずつイラストと共に描かれており、オフィスを綺麗に保ちながら自然と会社のPMVや考え方を身近に感じられるように工夫しています。

神宮外苑で打ち上がる花火がオフィスから綺麗に見えるので、ファミリーデーとして家族を招待する社内イベントも先日開催しました。お子様にとってはお父さん・お母さんがどんなところで働いているのかを見ることができ、こんな場所で働きたいと思ってもらえる良い機会なので今後もどんどんイベントを開催していきたいと考えています。

多彩な色に変化できるオフィスを目指して

――今後の事業の展望やオフィスのデザイン戦略について教えてください。

私たちは「すべての人生に自由を 医療に革命を」をMissionに掲げており、それを実現するためには、新たな製造拠点である「ZERO LAB」をいかに早く安定稼働させグローバル化につなげていくかが大きなポイントになると考えています。海外からお越しになる方が羽田空港から「ZERO LAB」を視察され、その後に渋谷の「ZERO BASE」へ、というツアーを組むことも可能になります。

「ZERO BASE」は、フリーダムホワイトが基調になっており、常に多彩な色に変化できる場所です。メンバーの働きやすさは大前提にあるため、足りないものがあればアップデートしていきます。私は「ZERO BASE」で毎日勤務していますので、皆が大切な1日をより良く過ごしてもらえるような導線・アイデア・デザインをこれからも考えていきたいと思います。ここから、ゼロから。弊社に関わる方それぞれが「ZERO BASE」を彩ってくれることを心から楽しみにしています。

――この度は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。

編集後記

CIのアップデートとオフィス移転を同時に行うことで、企業の姿勢や目指す姿をデザインの細部にまで反映されたセルソース株式会社様。家具・照明・造作などの形状・色・素材、そして音や映像などから発信される一貫したメッセージを五感で感じられるオフィスでした。

インタビュー・編集/服部
撮影/平井