生活習慣から世の中を変える 挑戦を加速するライオンの新本社

Vol.32 ライオン株式会社

東京都台東区蔵前1-3-28

https://www.lion.co.jp/ja/

「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)」をパーパスに掲げるライオン株式会社。2023年4月、東京エリアにあった4つの拠点を台東区蔵前に集結させた新本社がグランドオープン。約2,000名が所属する約6,600坪の本社移転プロジェクトを統括された総務部の三浦様にお話を伺いました。

総務部 本社移転推進グループマネジャー 三浦葉一様

健康で快適な毎日を

――主力事業においてこの数年で消費者ニーズの変化を教えてください。

コロナ禍で、消費者は衛生・安全性の高い商品を求めるようになりました。消毒液・ハンドソープ・除菌スプレーなどの需要はもちろん増加しましたが、たとえば洗剤の中でも除菌できるものを選ぶなど、より一層衛生意識が向上しているといえます。

個人の裁量を拡大したワークスタイル

――コロナ禍を経て御社の働き方はどのように変化しましたか?

本社移転前も出社率は3-4割程度でしたので、コロナ禍によってテレワークは定着したといえます。引越しに伴い一時的に4-5割の出社率になりましたが、直近はまた3割程度の出社率です。

勤務場所を伝えやすいよう執務エリアには番地が

――働き方にあわせて新しくできた制度や福利厚生、施策などがあれば教えてください。

もともとコアタイムありのフレックス制でしたが、個々の仕事・キャリアデザイン・生活スタイルなどに合った働き方を実現するため、まず2021年にフレックス制度のコアタイムをなくしました。またテレワークの回数制限も廃止しました。

お子様と一緒に勤務可能な親子ルームを設置 取材当日も振替休日で学校がお休みのお子様を連れた社員が利用されていた

業務特性から個人の裁量による就業時間帯の調整が難しい従業員には、会社へ事前申請することで、個人の所用による一定時間遅れての出社や早退を認め、通常の有給休暇とは別に時間単位で有給休暇として扱う『お助け休暇制度』や、働く場所の裁量拡大を支援するため、テレワーク手当を導入しました。今後もワークスタイルに合わせた制度の見直しを行い、自律的に生産性高く働くことができる環境整備を目指していきます。

4拠点をまとめる大プロジェクト

――今回の移転プロジェクトはいつごろからどのような体制で始動しましたか?

2018年に物件探しがスタートしており、2019年に移転プロジェクトが発足しました。専任で4名が選ばれ、途中で1名増員となり今に至ります。

――ご移転の背景や前オフィスで抱えていた課題について教えてください。

旧本社をはじめ各拠点の建物が竣工から50年近く経過しており、老朽化が課題の1つでした。加えて、本社移転には新しい働き方の実践とイノベーションの活性化という2つの狙いがありました。

ポジティブに仕事を行うためには、やらされ仕事ではなく自ら主体的に仕事をすることが大切です。コロナ以前はオフィスに出社することが前提でしたが、今後はオフィスだけでなく自宅や社外のサードプレイスも含めて働く場所を「自ら選ぶ」ことが新しい働き方だと捉えています。

また、自宅だけにこもっていては新しい発想やイノベーションは生まれにくいため、せっかく4つの拠点が一緒になるからには、部署の垣根を越えて多様なつながりやコラボレーションが生まれ、グループシナジーが発揮できるようなオフィスを目指しました。

――ご移転先はどのような条件でお探しになりましたか?

立地条件としては、研究所がある平井などから遠くないエリアを中心に探しました。BCPはもちろん、従業員の居住地や今後の国際化に向けて成田・羽田にアクセスがよく、かつ東京駅にも近い場所を選定しました。また、営業車の駐車場の確保も重要でした。

――現オフィスをご契約する際に決め手となったポイントは何ですか?

先述した希望条件を満たしており、新築ビル1棟で借りられる点と入居可能なタイミングがちょうど良かった点が決め手となりました。ビル側の新築工事と弊社側の入居工事を同時に進めることができ、食堂や講堂の整備がしやすく、駐車場も同敷地内の別棟に確保することができる点も大きな魅力でした。

アフターコロナを見据えた設計変更

――ご移転プロジェクトのご担当者様にとって何が一番大変でしたか?

2020年8月に私が担当に就任してから、コロナ禍や今後を見据えて可能な限りの設計変更に取り組んだことが一番大変でした。2019年から進めてきたプロジェクトで「つながり」や「自ら選ぶ」というコンセプトは決まっていたため180度の方向転換というわけではありませんが、コロナ前まで7割程度あった出社率が2割程度に落ち込んだ時期でしたので、今後の出社率の想定、各エリアの配席数、執務エリアと共用エリアの割合、共創フロアの設計など検討することは多岐に渡りました。関係会社も含めた部署間の調整やペーパーレス、ABWの理解浸透も大変でした。

台所や洗面まわりの商品も多いため水回りも完備 新製品の発表会も行える仕様に

――新オフィスのコンセプトについて教えてください。

「行きたくなるMY BEST OFFICE」を大きなテーマに掲げ、オフィス設計にあたって3つのコンセプトを策定しました。

1つ目のコンセプトは「自ら選ぶ」です。
従業員一人ひとりがアクティブに選択し、ベストパフォーマンスが発揮できるよう、5〜10Fの執務フロアはこのコンセプトで設計しました。執務フロアは16種類に及ぶミーティングルームやスポット、ブースを設置し、仕事内容・スタイル・気分に合わせて場所と設備を選べます。

取材を行った会議室は2F来客フロアの205(チャーミー) ライオンのブランド名がついた会議室は全部で31室

5〜10Fの執務フロアはほぼフリーアドレス

2つ目のコンセプトは「つながる」です。
4Fの共創フロアや12Fのカフェテリアは、社内外のつながりを強化しイノベーション誕生を促進するため、つながるをコンセプトに設計しています。

4F共創フロアのテーマは「インターチェンジ」 使う人の意思に応じて柔軟にレイアウト変更が可能

パーテーションは自由に天井に吊り下げ可能

12Fのカフェテリア「olion(オリオン)」
ライオンの多彩な仲間が輪になって集まろうという意味で社員の公募から名称が決定

ランチタイム以外にもワークスペースとして利用可能 17時半以降はバータイムに

来客との会食やプライベート利用が可能な人気の個室

テラスからはスカイツリーが望める 隅田川花火大会の日はファミリーデーとして開放予定

3つ目のコンセプトは「ワクワク」です。
特に1Fや11Fは、働く人の気持ちが高まると同時に、快適であることを重視してデザインしています。

1Fのエントランスフロアのテーマは「Feel LION」です。外からの光や風、鳥のさえずりや水のせせらぎ、ミントの香りなど、室内にいながらも五感で自然を感じられるつくりとなっています。

植栽の近くでは鳥のさえずりが聞こえる 天然ミントの香りが広がる涼しげなエントランス

歯磨きの香料には天然ミントを使用 3種類のミント畑は来訪者が触れることができ、品質へのこだわりが感じられる

11Fのテーマは「Wellness&Learning」
ラウンジのライブラリーでは旧4拠点から集約した蔵書や最新の新聞・雑誌・書籍を閲覧・貸出可能

11Fの「GENKIアクションルーム」には卓球台やボルダリングが

――内装デザインで御社らしさを感じられるところはどこですか?

やさしさ・つながりを重視したデザインにしているところですね。家具の色は白や茶色、グリーンなどを基調にしており、なるべく直線ではなく曲線を使ったデザインでやさしさを表現しています。

2F来客フロアのラウンジは曲線の多いデザインでやさしい雰囲気に

コップ不要でうがいができる上向き水栓の「歯磨き専用台」 各フロアに男女各5ヵ所設置

身長別の理想的な歩幅を表したライオンちゃんの足跡 壁にはストレッチができる設備も

――ご移転後の変化はありましたか?

6月中旬に「ワーク実態調査」を行いました。まだ本社移転から2ヶ月しか経過していないので全体で見ると顕著な変化はありませんが、業務効率やモチベーションについては他拠点と比較して本社所属の従業員は若干出社意向の向上が見られ、年代別に見ると20-30代がプラス傾向でした。施設・サービス評価では、認知から使用、反復使用と経験が上がるにつれて評価が向上する傾向が見られました。認知獲得が不十分なもの、機能が十分に理解されていないものなど、それぞれの持つ課題を把握し、施策に生かす必要があると感じています。

ダイバーシティを配慮した礼拝室も設置

グループ会社のライオンペット株式会社も入居 ペットが入れる専用ルームも設けた

――ご移転されて間もないですが、今後取り組んでいきたいことを教えてください。

執務エリアの真ん中に半円のコラボレーションエリアを設けましたが、他の場所と異なる意味合いがまだ認知されておらずソロワークで利用している人が多い状況です。ライトや色で区別はしていますが、見た目だけではなく例えば音楽を流すなど工夫し、他部署との共創を目的とする利用を促進していきたいと思います。

屋上庭園はまだ使ったことがない人が8割を超えています。利用者の満足度は高いため、認知率アップを図っていきたいと思います。その他の施設も含めて、こまかな機能や使い方が認知されていないために利用されていないケースもありますので、マニュアルや動画を充実させていきたいですね。また、1Fのフラッパーゲートで顔認証を導入していくことになっているため、これから全従業員の登録を進めていく予定です。

9Fの渡り廊下から屋上庭園に移動が可能

スペースの予約が必要かどうかや利用時間の上限を設けるか否かなど、使っているなかで新たな課題が見えてきます。社員からはTeamsのチャットで個人的に要望が来ることもあれば、7Fのコンシェルジュカウンターに相談に来る方もいます。そのようにして集まった意見をもとに今後の改善を進めていきます。

世界の生活習慣を変えていく

――最後に、今後の事業の展望やオフィス戦略についてお聞かせください。

2030年に向けて海外事業を拡大していきます。アジアでのグローカライゼーション戦略(※)を進化させ、最重要市場である中国をはじめ、既存国・エリアにおける事業の強化を進めてまいります。

※グローカライゼーション戦略:グローバル化とローカル化の融合を図り、独自の競争優位性を創出する戦略

オフィス戦略については、今回の本社の移転はテストケースだと捉えていますので、今後も本社で改善を継続しつつ、全国の営業所や研究所の対応を含め、全社での生産性向上を図っていきたいと思います。

――この度は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。

編集後記

「出社率にはこだわりがなく、今日出社している従業員がこのオフィスを使うことで100点に近いパフォーマンスが出せることが大事だと考えています。出社していない人はその日は他の場所の方がよいと判断しただけなので、選んだ場所でパフォーマンスを最大化できればよいのです」という三浦さんのお言葉が印象的でした。
これだけ広いオフィスだと、全社員に機能や使い方を周知するのが大変ですが、これからますますマニュアルや運用ルールがアップデートされ、利用された方のワクワクが伝搬していくのが楽しみです。

 

インタビュー・編集/服部
撮影/西崎