採用に特化したエリアを新設 事業成長を加速させるSansanのオフィス戦略

Vol.14 Sansan株式会社

東京都渋谷区神宮前5-52-2 青山オーバルビル 13F

https://jp.corp-sansan.com/

東京・表参道の青山オーバルビルに本社を構えるSansan株式会社。徳島県にサテライトオフィスを開設し早くからリモートワークを実施されてきましたが、コロナ禍を経て2021年11月からアフターコロナを見据え、職種別に新しい働き方をスタートされました。また、人員増加に伴い増床された本社3Fの新フロアは採用に特化したエリアに。これからの働き方やオフィス戦略について人事部の平山様とオフィス戦略部の白鳥様にお話を伺いました。

オフィス戦略部 白鳥喜章様(左)/ 人事部 副部長 Employee Successグループ グループマネジャー 平山鋼之介様(右)

名刺管理だけじゃない!Sansanの働き方を変えるDXサービス

――コロナ禍で人々の出会い方は大きく変わりましたが、御社の事業やマーケットはどのように変化しましたか?

平山:当社では法人向けクラウド名刺管理サービスの「Sansan」と個人向け名刺アプリの「Eight」を展開してきましたが、コロナ禍でリアルな出会いが減少したことで、紙で交換される名刺の数も減少したというのは事実です。そこで、コロナ以前から計画していたオンライン名刺機能を大幅に前倒ししてリリースしました。すでに6,000社以上にオンライン名刺をご利用いただいています。デジタル化をしていたからこそ、コロナ禍でも営業活動ができているとお客様の声をいただいていますので、引き続きお客様の出会いをこれからもサポートしてまいります。

――マーケットのニーズや変化に対応するために新たに追加された機能やサービスはありますか?

平山:世の中でDXの流れが加速していますので、名刺をデータ化する基幹技術とビジネスモデルを応用し、2020年5月に「Bill One」というクラウド請求書受領サービスをスタートしています。2022年1月から電子帳簿保存法の改正があり、電子取引の請求書データ保存が義務化されることも追い風となり、毎月右肩上がりに急成長している事業です。また、コロナ禍で各種イベントのオンライン化が進んだため、イベント開催に必要な機能をオールインワンで提供する「Seminar One」というセミナー管理システムも開発し、こちらの事業も好調です。

――他のオンライン会議ツールでセミナーを開催した場合とどのような違いがありますか?

平山:例えば、これまではオンラインイベントを開催するとなると、申込フォーム作成、申込者にURLを発行して送信、当日は参加しているかどうかをアナログでチェック、イベント終了後は参加者にアンケート送信、ご興味を持っていただいた方には次のご案内、といった一連の流れがあり、手作業だとそれぞれの工程に膨大な手間がかかっていました。Seminar Oneを使えば、申込者の当日の出欠状況、アンケート回答状況、何に興味があるか、今後どんなご案内を配信するかが1つのシステム内で完結するので、開催者側の工数を5~10分の1に削減することが可能です。また、Eightにはビジネスイベントを掲載するメディアの「Eight ONAIR」という機能が加わりました。自分と繋がっている方がどんなセミナーに興味があるのかや参加するのかが可視化され、隙間時間にスマートフォンでも気軽にセミナーを視聴し、主催者と名刺交換することが可能です。セミナーに参加する側はすでに自分の情報が登録されているためボタンを押すだけで手軽に視聴でき、主催者側も一瞬で正確な参加者情報が入手できるメリットがあります。Eightが様々なビジネス情報や繋がりをもっと身近で便利なものにアップデートする中でも大きな一歩だと捉えています。

社員の相互理解を深める施策「Know Me」と「ななはち」って?

――ここ数年、働き方や組織はどのように変化してきていますか?

平山:弊社は「出会いからイノベーションを生み出す」をミッションに掲げていますので、同じ空間・同じ時間に皆が集まって一緒に働くことで様々なアイディアやインスピレーションが生まれることを大切にしてきました。一方で10年ほど前から徳島県神山町にサテライトオフィスを開設し、リモートワークも導入してきました。出社とリモートをいかに両立させるかというテーマはこれまでも取り組んできたものの、コロナ禍でリモートの比率が大きく増え、多くの社員がリモートを余儀なくされたため、この約1年半~2年間は働き方を模索しながら様々な施策を取り入れてきました。リモートワーク下で入社してくる社員も多く、どのようにして会社や業務を理解してもらうのかという点も常に考えてきました。

――オンラインでのコミュニケーション促進の工夫について教えて下さい。

平山:弊社には一定の条件のもと他部署の人と飲み会をする際に会社が飲食費を支援する「Know Me」という制度が以前からありました。コロナ禍においては、オンラインでも交流を促進するために「Know Me」に参加したいと希望したメンバー同士をシャッフルでマッチングし、オンラインでのランチや飲み会を推奨するキャンペーンを開催しました。
また、新入社員向けには「ななはち」と呼んでいる制度があります。様々な部署が同じ目標に向けて協力していこうというカルチャーのもと、新入社員が円滑に業務を進められるように社内交流を深めてもらいたい社員を紹介します。新入社員のマネジャーが既存社員2人と新入社員1人の2on1を設定し、その後は既存社員からの紹介で別の社員との2on1を2回実施しています。この取り組みでは部署のことや仕事内容を教えてもらうのですが、合計6名の既存社員と1名の新入社員ということで「7人8脚=ななはち」と呼んでいます。私自身も入社当時「ななはち」でお話した方と現在も仕事で関わりが多いのでとても助かっており、思い出深いです。

白鳥:これまでは自分から関わりに行かないと他部署の方と関わりをもつことは少なかったのですが、半ば強制的に関われる機会ができるので、それがきっかけで業務が円滑に進んでいると思います。

新しいワークスタイルは「オフィス・セントリック」がキーワード

――アフターコロナを見据えて、2021年11月から新たな働き方に移行されたそうですが、詳細を教えてください。

平山:当社の事業戦略においてどのような働き方をするのが一番よいか経営陣・人事含めて議論を重ねた結果、出社して皆が同じ時間・空間を共有するという価値観を大切にしながらリモートワークを上手く組み合わせる「オフィス・セントリック」という考え方に至りました。リアルなコミュニケーションやチームワークがより重要なビジネス職は週3日出社し、エンジニア・デザイナー・クリエイターなどの専門職は週3日出社もしくは週1日出社どちらかから選択できる働き方になりました。コロナ禍でエンゲージメントに関するアンケートを毎月社員にとり、リモートワークと個人のパフォーマンスの関係を見てきましたが、専門職はビジネス職に比べてリモートワークでもパフォーマンスは下がりにくいということがアンケートの結果や社員の声から見えてきましたので、職種によって働き方を分けています。

採用に特化したエリアを新設

――コロナ禍で御社の採用活動はどのような変化がありましたか?

平山:コロナ禍でも事業成長により2年間で約400名社員が増えました。面接をオンライン化したことで、遠方の方や在職中の方はスケジュールの調整がしやすくなり採用スピードが大きく加速しました。一方ネガティブな要素としては、一度も会社に来たことがない、会社のリアルな雰囲気を知らないまま入社するかどうか意思決定をしなければいけないため、最終段階で入社を迷う方が多くなったという点はあるのかなと感じます。

――会社のカルチャーや雰囲気を伝えるためにどのような取り組みをされていますか?

平山:例えばオンラインで社内を歩きながらオフィスツアーを行ったり、希望者がいれば最終面接時や面接後にオフィス見学の機会を設けたり、柔軟に対応しています。オフィスに来られない方には「こういう社員と話したい」という希望に沿って既存社員とのカジュアル面談を設定し、話す機会を多く作っています。ご家族の転勤や介護などのやむをえない理由の一部の方を除いては、コロナが収束したら出社をしていただく前提で採用活動は行っていました。

――採用に特化した新エリアをオフィス内に作られた経緯について教えてください。

白鳥:嬉しいことに社員数が急増し、オフィスの面積が足りないため当ビル内で空きが出れば増床する予定がありました。3Fに空き予定が出て増床できる見込みが立った時にどのような使い方がベストかをオフィス戦略部内で検討し、採用活動を後押しできるようなエリアにした方がよいだろうという結論に至りました。

――採用に特化した新エリアはどのような使い方を想定されていますか?

平山:これまで人事は13Fの総合受付のフロアに座席がありましたが、候補者の方にお越しいただく際に会議室が足りないことが課題でした。そこで今回3Fには11の会議室を設け、人事部のメンバーも3Fで執務することになりました。会議室は候補者の面談など採用優先ですが、空いていれば別目的でも利用可能です。

――新エリアができたことによる採用ご担当者様やエントリーされる候補者の方にとってのメリットをお聞かせください。

白鳥:当社の働いている雰囲気を候補者の方に感じてほしいという思いから、13Fの時よりもより一層執務室の働いている様子を見てもらえるレイアウトにしました。そのため、候補者の方にとっては社内の雰囲気が理解しやすくなったのではないかと思います。採用担当からすれば、会議室が優先的に利用でき、なおかつ同じフロアに執務室があることで候補者の方が来られた際にすぐ気づき、アテンドできるという点で運用がしやすくなりました。

平山:採用において面接日程調整はとても重要です。特に中途採用は普段お仕事されながら転職活動をされるケースが多く、他の企業と比較しながら選考を進められるため、面接の日程調整が遅くなるとそれが理由で辞退されることもありえます。これまでは候補者と面接官と会議室の空き状況という3つのスケジュールを調整する必要がありましたが、会議室を気にせず日程調整できるようになったのはかなり大きなメリットです。スピードが上がり、候補者の方をお待たせする日数が減ったと思います。

白鳥:当社のサービスをご利用いただいているユーザー様をVoyagers(航海者)と呼び、ユーザーコミュニティでは「We are Voyagers」を掲げて一緒にコミュニティを盛り上げていっているのですが、その世界観を彷彿とさせるデザインを取り入れ、各会議室名を惑星の名前にするなど、少しずつ当社の雰囲気やプロダクトを知ってもらいたいという思いが込められたオフィスです。各会議室の壁にプロダクトのロゴ(サービス名)を入れることで、話のきっかけにできるようにしています。

エレベーターを降りると一面のブルーに目を奪われる

――新エリアのコンセプトやデザインでこだわられた点、レイアウトへのご要望などについてお聞かせください。

白鳥:総合受付がある13Fはエレベーターを降りると左右斜めに通路が伸び、左に進むと神山町をイメージした植物が多いガーデンというエリアがあって、右に進むと会議室がある特徴的なレイアウトになっています。新しく増床した3Fは前テナント様の居抜きなので雰囲気が残ってしまっていたのですが、あえて13Fと同じようにエレベーターホールから左右斜め前に伸びる通路を作り、一体感やSansanらしさを演出しています。また、ガラスパーティションを多用することで、社内のつながりや見通しのよさを表現しました。

白鳥:さらに、執務室エリアの一番手前にフリースペースを設け、大きなソファやキャンピングチェアなどを配置することで、単にデスクに座って働くだけではなく、自由な働き方ができることを見てもらえるようにしています。フリースペース以外にも青山通りを見ながら立って仕事ができるスペースや、昇降デスクが利用できるエリアなど、新しい試みも今回取り入れました。

来社された候補者の方は社員が働く姿を間近で見ることができる

平山:13Fにいたときは執務室が現在よりも狭くほぼ人事部だけでしたが、3Fに移ってきてからは総務や経理、情報システムやオフィス戦略などバックオフィス部門と同じフロアになったので、コミュニケーションがとても取りやすくなりました。今までは異なるフロアに会いに行かないと会えませんでしたが、ちょっと声をかけに行ったりコーヒーをいれに行くついでに立ち話したり、とても仕事がしやすくなりました。

白鳥:実はそれも狙いだったんです(笑)。バックオフィスを支える部門同士、相互のコミュニケーションは欠かせませんので、これまで3フロアに分散していたバックオフィス関連部門を1フロアに集約することを重視しました。バックオフィス部門が集まることで、他の部署のメンバーも3Fに来る機会が増え、おのずとそこから会話が生まれ、新しいアイディアやシナジーが生まれると期待しています。執務エリアのちょうど中心のゾーンに複合機、自販機、ウォーターサーバー、備品などを置くことで、メンバーが執務エリア内を移動するときに交流が増えていると実感しています。

データの価値を正しく広める

――今後の事業や組織の展望についてお聞かせください。

平山:ビジネスインフラになるというビジョンを今年から掲げ、事業部制からマルチプロダクト体制へ移行しました。プロダクト毎の責任をもつ組織をつくったり、これまで各事業部に紐づいていたエンジニアを1つの技術本部にまとめて相互に学び合い、その時必要な所にリソースを集中することができるようになりました。マルチプロダクト体制になったことで、企業の中にベンチャーがたくさんできたような感覚もあり、それぞれのプロダクトや組織がしっかり育っていくことが非常に大切です。組織を分けると一般的に縦割り化が起こりがちなので、そのような問題を理解した上で縦・横・斜めのコミュニケーションをしっかり取り、オフィス戦略や人事制度含めて工夫していきたいと考えています。

平山:コロナ禍でこれまでの常識が変わっていく中で、弊社としても変化に対応して打つべき手を打ってきましたが、新たなサービスの価値がお客様にきちんと届いているかという点ではまだ道半ばかなと思っています。データ化してあるからこそより情報の活用度が増すということは、ご利用いただいているユーザー様はご理解いただいていますが、サービスをご利用いただいていないお客様の方が社数としてはまだまだ多いのが現状です。例えば「名刺交換頻度が減ったから名刺管理サービスは不要だ」というイメージのまま止まっておられる方も多いと思います。名刺情報をデータ化し、蓄積・活用ができていないことで、今後のビジネスが難しくなるお客様もいらっしゃると思いますので、情報の活用という観点で弊社のサービスの価値を正しく認知していただけるように努めていきたいと考えています。

――この度は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。

編集後記

「オフィス・セントリック」という言葉がとても印象的だった今回のインタビュー。職種によってリモートワークを上手く併用しながらも、同じ空間にいて気軽に話しかけられるのはオフィスならではのメリット。部門を超えて組織を活性化させるオフィスづくりがこれから多くの企業で進んでいきそうです。オフィスMUGでは今後もたくさんの企業のオフィス事例や働き方にフォーカスしてまいります。

インタビュー・編集/服部
撮影/西崎