第4回 従業員が成長する企業をつくるために 知っておきたい制度と事例

【ワークスタイル大辞典】第4回 従業員が成長する企業をつくるために 知っておきたい制度と事例

人びとの暮らしや価値観が大きく変容する中で、仕事と家庭の両立に苦労する従業員のフォローが企業の大きな課題となっています。また、本業だけでなく、本業以外の場でも新たなスキルを身につけたいと思う人も増えてきています。

この記事では、仕事と家庭の両立や、幅広いキャリアを得ることを目指す労働者に対する企業の取り組みをご紹介します。

連載企画【ワークスタイル大辞典】

「ファミリー・フレンドリー」の取り組み

ファミリー・フレンドリー企業とは

「ファミリー・フレンドリー企業」とは、従業員の仕事と家庭の両立に十分配慮し、多様でかつ柔軟な働き方の選択を可能とすることを経営の基本にしている企業のこと。

厚生労働省は、2018年度まで、仕事と育児・介護の両立を支える取り組みを積極的に行い成果をあげている企業に対して表彰を実施していました(「厚生労働省均等・両立推進企業表彰(ファミリー・フレンドリー企業表彰)」)。

ファミリー・フレンドリー企業の評価基準

表彰制度としては終了してしまいましたが、厚生労働省の評価基準は、「ファミリー・フレンドリー企業とは何か」を考える上で参考になります。表彰を実施していた当時は、以下の4つの基準で評価を行っていました。

① 育児・介護休業制度が育児・介護休業法を上回る水準で、労働者の利用も多いこと

② 仕事と家庭のバランスに配慮した柔軟な働き方ができる制度を持っており、労働者の利用も多いこと

③ 仕事と家庭の両立を可能にするその他の制度を設けており、労働者の利用も多いこと

④ 仕事と家庭との両立がしやすい企業文化をもっていること

ここで重視されているのは、ただ育児・介護休業などの制度があるだけでなく、制度の利用がしやすい雰囲気があること。特に、女性のみならず男性労働者も利用しやすい雰囲気であることや、育児・介護と仕事の両立について、経営トップや管理職の理解があることも重要とされています。

参考:仕事と育児・介護の両立支援に取り組む企業に対する表彰について

企業側のメリット

欠勤・離職の減少

ファミリー・フレンドリー施策を導入することで、企業側にとっては、従業員の育児や介護による急な欠勤や離職を防ぐことが期待できます。

従業員が育児や介護をきっかけに離職する主な理由は、仕事との両立の難しさ。育児・介護のための休業制度や勤務時間の短縮制度などが整備されていれば、フルタイム勤務のみの制度しかない場合と比べて、同じ仕事を続けやすくなります。

人材の確保

ファミリー・フレンドリーの取り組みに該当する福利厚生が整っていることは、採用面でも効果的です。

法律で定められている育児・介護のための休業以上に制度が充実しており、実際に取得しやすい雰囲気があることは、将来的に育児を考えている人や、介護への不安がある人に対して大きな魅力として映り、優秀な人材確保という側面でもよい影響をもたらすでしょう。

従業員側のメリット

会社に対する信頼感・安心感の醸成

ファミリー・フレンドリーの取り組みが充実していることの従業員にとっての最大のメリットは、『育児や介護と両立して働きやすい』という実感を得られることです。

育児・介護にともなう離職で、それまでに築いたキャリアを失ってしまう人もまだまだ少なくありません。『この会社なら安心して働き続けられる』『休業明けも働きやすい環境で仕事ができる』と思えることで、会社に対して信頼感・安心感を持ちながら仕事をすることができます。

具体的な取り組み事例

男性の育児休業の取得促進に対する施策

リクルート

  • 男性育児休暇制度を最大 20 日、内 5 日取得を必須化
  • 管理職の理解を促す育児体験プログラム「育ボスブートキャンプ」
  • ワーキングマザーの生活のVR疑似体験

積水ハウス

  • 「家族ミーティングシート」「イクメン休業取得計画書」等のツール活用
  • 勤態管理で取得対象者、取得状況の把握が可能
  • 未取得者本人とその上司の PC 上に定期的にポップアップ表示
  • フォーラムや研修による、本人と上司の意識改革

仕事復帰に対する施策

ソウ・エクスペリエンス

  • 3歳までの子どもを対象とする「子連れ出勤」

楽天・GMO・NTTデータなど

  • 企業内保育所の設置

複業

複業とは

複業とは、「パラレルキャリア」とも呼ばれ、その字の通り複数の仕事に並行して取り組む働き方のことを指します。政府が推進する「働き方改革」が話題になった2018年以降、急激に注目されるようになりました。

副業との違い

「副業」はメインになる本業が他にあることが前提で、サブ(補助)として収入を目的に行う仕事のことを指します。 一方、「複業」は、複数の仕事を掛け持ちしながらもメイン・サブという序列がなく、『どれも本業である』という考え方を指します。

複業のメリット

効率的なスキルアップ

分野の異なる複数の仕事を経験することで、短期間で広範囲にわたる分野でのスキルアップが期待できます。ひとつの仕事からでは得られない知識やスキルなどを、他の仕事から得られる可能性があります。

それぞれの仕事への好影響

スキルの幅が広がると、対応できる業務の幅も広がります。また、掛け持ちしているそれぞれの仕事が相互に好影響を与える可能性もあります。ある仕事で得た人脈や実績が、別の仕事に新たなチャンスをもたらすなど、いいシナジーを生みやすいことが特長です。

プロボノ

プロボノとは

「プロボノ」とは、「公共善のために」を意味するラテン語「Pro Bono Publico」を語源とする言葉で、社会的・公共的な目的のために、職業上のスキルや専門知識を活かして取り組むボランティア活動のことを意味します。

プロボノは、もともとアメリカやイギリスなど、社会貢献の意識が高い先進国で、法曹界を先駆ける形として始まりました。現在でもその精神は受け継がれており、全米法曹協会は、弁護士が年間50時間以上のプロボノ活動を行うことを推奨しています。

日本の法曹界においても、プロボノ活動は一般的となりました。弁護士法の第1条には、「弁護士は基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」とされており、公共善につながる活動への取り組みが推奨されています。

副業やボランティアとの違い

仕事で得た自分の専門スキルを使って、無償の社会貢献をするのがプロボノです。専門スキルを活かして活動できるところがボランティアとは異なり、無償で行うというところが副業とも異なります。

プロボノのメリット

自分のスキルを活かしながら社会貢献ができる

プロボノでは、自分のスキルを活かしながら社会貢献ができます。

ボランティアの場合は多くは未経験な分野に挑戦することとなりますが、スキルが活用できる仕事を任されることで、貢献価値が大きくなります。「あえて経験のない分野に飛び込むよりも、スキルを活かしてやりがいを感じたい」という人には、ボランティアよりプロボノが適しています。

また、プロボノを募るNPO法人には人材や資金が不足しているところも多く、専門スキルを持った人を雇うのが難しいという状況があります。知識や経験、スキルを無償で提供してくれる高度な人材の存在は、NPOが本来の仕事に集中するための貴重なサポートになるでしょう。

社外で自分の力を試すことができる

プロボノでは、異なる専門スキルを持つ人がチームを結成し、依頼された課題に取り組むのが一般的です。顔見知りがいる社内とは違い、新しい人たちと不慣れな環境で仕事を始めることになります。そこから得られた課題を本業にフィードバックしたり、自分のそれまでの働き方を見つめ直したりすることにもつながります。

新しい出会いを経験できる

プロボノ活動でチームを組むのは、それぞれの分野のスキルを持つ、年齢も職業も異なる人たちです。社外で新たな人たちと新たな関係を築けるのは、ビジネスと私生活の両面において大きな経験となるでしょう。

また、背景の異なるメンバーと相互に連携しながらプロジェクトを達成しなければならない環境に身を置くことで、本業でもプロジェクト・マネジメントの経験を活かしやすくなります。

具体的な取り組み事例

NEC

NECは、2010年から「NEC社会起業塾ビジネスサポーター」という名称でプロボノを始めています。NECグループの社員から4〜8名のメンバーを公募し、NPOや社会起業家を対象に、ウェブサイト構築や顧客管理、営業戦略立案などの支援を行っていくものです。

社員は週3時間まで、6ヶ月程度の無償奉仕を行うことになります。会社としては社員教育の面におけるメリットを得られ、社員は社会の課題に向き合うことで刺激を受け、それが新たなサービスを生み出すための経験となることが期待できます。

ここまで、働く場と制度の両面から、近年注目されている概念を中心に説明してきました。自社に取り入れられそうなものもあれば、反対に馴染まないものもあったかと思います。ぜひ、これからのワークスタイルを考える上での参考にしてみてくださいね。