【ワークスタイル大辞典】第2回 働く場所はオフィスだけ? 「ABW」を実践するには

この記事では、ワークスタイルを構成する要素のうち、オフィス環境などのハード面について説明します。

近年流行しているワークスタイルの意外なメリット・デメリットや、これから注目を集めそうな新たな概念についてもご紹介するので、ぜひ自社に取り入れる上での参考にしてみてくださいね。

連載企画【ワークスタイル大辞典】

ABW(Activity-Based Working)

「ABW」とは、「Activity-Based Working(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」の略称。オランダの企業が1990年代に生み出したワークスタイルで、仕事の内容にあわせて、時間や場所を従業員の意思で選ぶことができる働き方を意味します。

従来型のオフィスでは、オフィス=執務スペースと捉えられていることが大半でした。これに対して、ABWを実践するオフィスでは、集中して働くことができる執務スペース以外にも、その企業の特色にあわせて複数のスペースを設けます。

たとえば、従業員同士の偶発的なコミュニケーションをもたらすカフェスペース、テーマを持った話し合いに特化したスペース、複数人で集まってクリエイティブなアイデアや意見を交わすためのスペースなど……仕事の内容にあわせて最適な場所で働くことを可能にするために、企業側から進んでスペースを提供する必要があります。

ABWのメリットは、自分の意志で場所を選んで働けることで、従業員が仕事に対してよりポジティブに取り組みやすくなること。コロナ禍の影響もあり、働き方に多様性が生まれた今、ABWの考え方はより注目を浴びるようになってきています。

ABWの取り入れ方については、こちらの記事でもご紹介しています。興味がある方は、あわせてチェックしてみてください。

ニューノーマルのスタンダードな働き方「ABW」とは?

ABWの前提としてのフリーアドレス

上記のABWを実践するためには、オフィスのフリーアドレス化が前提となります。

「フリーアドレス」とは、社員ひとりひとりに対して固定の座席を割り当てるのではなく、好きなデスクを選んで働くことができるオフィスのスタイルのこと。

部署を超えてコミュニケーションが活性化されるなどのメリットはあるものの、書類や文房具などの細かい備品を持ち運ぶ必要がある企業や、ひとつの作業に集中する必要がある業種・職種では不向きのため、導入の前には十分な検討が必要です。

リモートワーク/テレワーク

新型コロナウイルスの予防対策の一環として取り入れられるようになった「リモートワーク(テレワーク)」も、ひとつのABWの実践の形です。

ここでは、そのメリット・デメリットと、いくつかの形態についてご説明します。

リモートワーク(テレワーク)のメリット

従業員側)通勤が発生しない

総務省統計局による平成28年度の社会生活基本調査の結果によると、日本人の平日の通勤時間は、平均で片道39分(往復で1時間19分)かかっています。通勤手段は「車」が最も多く、次が「電車」でした。

通勤が発生しないことで、身体的・精神的なストレスを避けられるほかにも、短縮された分の時間で読書や勉強などの自己啓発に励むことができるというメリットがあります。

また、パートナーと家事や育児を協力しやすくなり、これまで一方にかかっていた負担を分散できることで、ウェルビーイング(従業員の幸福や健康)に寄与することもあります。

企業側)固定費が削減できる

リモートワーク(テレワーク)の導入によって、オフィス面積の削減を実施し、固定費の大幅な削減に成功した企業も増えています。

ある企業では、全社的なリモートワークを導入することで、オフィス面積を従来の50%まで削減。予算を別のプロジェクトに投資して、売上の増加につながる例も増えています。

リモートワーク(テレワーク)のデメリット

従業員側)仕事とプライベートの線引きが難しい

リモートワーク(テレワーク)では、始業と就業の境目が曖昧になり、際限なく働いてしまうことがあります。

また、オンラインのコミュニケーションがメインとなるので、時間的な制約がなく仕事ができる状態となり、夜間や休日でもつい連絡を返してしまうなど、仕事とプライベートの線引きが難しいことが問題となりやすいという問題もあります。

時間外労働が発生しても注意しづらい環境のため、企業側には、ストレスチェックの導入・活用などによって従業員の過労を未然に防ぐ努力が求められます。

従業員側・企業側)個人の能力や環境によって、生産性が左右されやすい

管理の目が行き届きづらいため、個々人のセルフマネジメント能力の多寡でパフォーマンスに差が生まれやすくなることは、従業員と企業のいずれにとっても課題です。

また、オフィスではパフォーマンスを発揮できた従業員でも、家庭環境のために同じ水準を保つことが難しくなることもあります。

デスクや椅子などの設備・通信インフラ・快適な気温など、オフィスでは仕事をするための環境が従業員に対して均一に整えられていますが、すべての家庭で同じような環境を実現することはできません。

未就学児がいる、家が狭くワークスペースを確保できない、快適なデスク・椅子が用意できない、通信環境に問題がある……など、各々の環境下で働いていることを考慮し、企業は最大限に補助することが必要です。

業務を進める上でも、ちょっとした質問がしづらいなど、コミュニケーション上の課題が付き物です。

特に受け入れ段階の新入社員などに対しては、対面で業務を教えるよりもきめ細やかなサポートが必要になるため、それを踏まえた研修計画を作成しましょう。

 

リモートワーク(テレワーク)の形態

在宅勤務

従業員がそれぞれの自宅で業務を行う形態。

コロナ禍では、同居家族以外との接触を避ける意図で在宅勤務が求められています。

前述したように、従業員自ら働きやすい環境を整備しなくてはいけないため、企業によっては毎月の賃金とは別に手当を支給することもあります。

モバイルワーク

カフェやコワーキングスペース、移動中の車内など、自宅に限らず業務を行う形態。

「どこにいても仕事ができる」という点では自由度の高い働き方を実現できるものの、情報の流出などには十分に留意しなければなりません。

ワーケーション

Work(働く)とVacation(休暇)を掛け合わせた造語で、リゾート地や観光地で余暇を楽しみながら仕事をすること。

東京都の「Go To トラベルキャンペーン」の事業が活発だった時期に話題になった働き方で、観光庁によると「ワーケーション」という言葉の企業における認知率は約8割に上っています。

ワーケーションを導入した企業の主な理由は下記の通りで、「多様な働き方の提供」が最も多い意見でした。

①多様な働き方の提供

②心身のリフレッシュによる仕事のクオリティと効率の向上

③優秀な人材の確保

④有給休暇取得率の向上

ワーケーションの効果はまだ未知数ながら、人気の保養地の提供とともにワーケーションのための補助を出す企業もあるなど、従業員のモチベーション向上求職者にアピールできる福利厚生として導入する企業が増えていきそうです。

 

Team-Based Working

ABWの考え方が広まりを見せる一方で、各従業員が働く場所を自由に選ぶことができるワークスタイルは、内向的な性格の人にはあまり向かないことや、オフィスを衛生的に保つための努力が必要なことも指摘されています。

そこで、2018年にメルボルンで開催された会議「Total Facilities」では、「Team-Based Work」という新しい考え方が提唱されました。これは、4〜7人程度の少人数のチームを設定し、チーム単位にスペースを割り当てるオフィスのスタイルのこと。

Team-Based Workでは、各チームに固有のセミクローズドなスペースが用意され、メンバーは作業の内容や気分にあわせて、チームスペース内の好きな場所で働くことができます(ちょうど、ひとつの企業のオフィス内がコワーキングスペースのようになっているイメージでしょうか)。

Team-Based Work の考え方は、チームのメンバーがお互いをカバーしながら多様性を促進し、同時にチーム間の接続やコラボレーションもしやすいことがメリットです。

生産性やクリエイティビティの向上のために働き方を改善したいものの、ABWの考え方やリモートワーク(テレワーク)が馴染まない企業では、このような考え方のオフィスづくりを視野に入れてみてもいいかもしれません。

ここまでは、「働く環境」についてご紹介しました。続いては、ワークスタイルのうち、制度や意識などにフォーカスしてご説明します。自社に新たなワークスタイルを導入することを検討されている場合は、働く環境と制度・意識の両面から考えてみてくださいね。