【ワークスタイル大辞典】第1回 アフターコロナのオフィスを再検討する

この記事は、【ワークスタイル大辞典】と題し、オフィスの捉え方の変化や働き方の多様化の潮流を解説する連載企画の第1弾です。

ワークスタイルを考える意義、見直す観点、ワークプレイスの種類、支える制度面や海外のトレンドを扱っていきます。

それぞれのワークスタイルのメリット・デメリットについて知り、企業のカルチャーにあったワークスタイルを考えることで、自社にうまく取り入れていただきたいと思います。

連載企画【ワークスタイル大辞典】

なぜ今、ワークスタイルを考える必要があるのか?

コロナがもたらした新たなワークスタイルの誕生

2020年以降、新型コロナウイルスが猛威をふるい、感染拡大を防止するために企業に対してテレワーク(リモートワーク)や時差出勤の実施が求められるようになりました。

2021年12月度の東京都の調査によると、都内企業のテレワークの実施率は56.4%。従業員数300人以上の企業では最も高く、73.2%の企業がテレワークを実施しています。

物理的な移動や対面の制約が生まれる中で、オフィスが果たす機能や役割も、コロナ以前と以降では変容しています。

コロナ禍以前には、オフィスが「作業の場」として機能している企業も多かったことと思います。異なる作業をする場合でも、同じ場所に集まって業務を行うことそれ自体が、管理や評価のしやすさ、帰属意識などの面で重要と捉えられていました。

また、営業活動や採用活動における信頼感の醸成やブランディングの目的でも、オフィスは重要な役割を担っていました。

都心の一等地のハイグレードビルは、訪問する企業や求職者に向けて対外的なイメージを強固にします。ベンチャーやスタートアップにとって、企業カルチャーやビジョンを表現した内装のオフィスがひとつの憧れであることは、今現在も変わりません。

ところが、コロナ禍を経た私たちは、オフィスの意義はそれだけに留まらないことに気づくことになります。

オフィスは不要? 必要? 二元論ではなく、企業にあったワークスタイルを

テレワークが広まったことで、出社無しでも問題なく業務ができることがわかった人たちの一部からは「オフィス不要論」が唱えられることもありました。しかし、それは早計と言わざるをえません。

急速に出社からテレワークへの切り替えが進んだことで、メリットを享受している企業もある一方で、そもそもテレワークが企業の文化や業務内容に合っていないケースも浮き彫りに。

さらに、テレワークがうまく浸透していたとしても、必要に応じて、テレワークと出社のハイブリッドのような働き方を実施している企業もあります。

参考:テレワークの実態!導入企業の経営者・管理職の52%が不満(PR TIMES)

ウィズコロナの時代におけるオフィスは、いわば「コラボレーション(協創)の場」。

個人作業や画面を通した会話では難しいコミュニケーションを通して、人と人の交流から生まれるクリエイティビティを発揮する機能を果たしています。コロナ禍以前にも同様の意義はあったものの、「オフィスに出社できない」という状況を通して、初めて強く実感した方も多いのではないでしょうか?

▲コロナ禍を経て、2021年に移転したオフィスナビの東京本社(上)と大阪本社(下)のオフィス。人が集まりやすい休憩スペースを設け、コミュニケーションが生まれやすい場づくりをしている。

“アフターコロナ” の時代を控え、今後ますます注目されるであろう「ワークスタイル」の概念。

オフィスでしかできないこともあると身をもって体感した以上、完全出社/オフィス不要という二元論ではなく、自社の文化や業務内容、個人の性質にあわせて、企業やそこに所属する社員が最も適したワークスタイルを選択できるようになることが重要です。

ワークスタイルを考える観点

コロナ禍を経て、望むと望まらずとにかかわらず、多くの企業がテレワークを導入するようになると、これまでにはなかった新しいワークスタイルも誕生。多様な働き方が当たり前になり、ワークスタイルの面から企業を選択する求職者も増えてきました。

柔軟なワークスタイルを推進することは、企業とそこで働く社員、両者にとってメリットがあります。時間や場所の制約がなくなることで、遠方の優秀な人材や、育児・介護等で完全出社制の下では離職せざるをえなかった人も働けるように。求職者も、「フルタイム制の完全出社」といった従来の働き方にとらわれず、自身の能力を十分に発揮できる環境を実現できます。

ここでは、「時間の制約」と「場所の制約」という2つの軸でワークスタイルを考えてみましょう。

時間的制約

働く時間は、おおまかに「所定労働時間(どれだけ働くか)」と「勤務時間帯(いつ働くか)」に分けられます。

「時間的制約がなければないほど良い」というわけではなく、労働者に裁量を委ねることで生まれるデメリットもあります。まずは、いくつかの勤務形態や制度をご紹介しましょう。

フルタイム勤務

会社が定めている勤務時間帯の始まりから終わりまで働く勤務形態のこと。

時間的制約が最も大きく、使用者側は管理や評価がしやすい一方で、労働者にとっては柔軟な働き方が難しくなります。

時短勤務

一日の所定労働時間よりも短い時間で、決められた時間だけ働く勤務形態のこと。

2009年の育児・介護休業法の改正によって、対象の事業主に対して、時短勤務の導入が義務付けられました。

フレックスタイム制度

所定労働時間の範囲内で、始業・終業時刻、労働時間などを労働者自身が自由に決められる制度。

コアタイム(必ず勤務しなければいけない時間帯)を設ける場合と、コアタイムなしで完全に労働者の裁量に任せる「スーパーフレックスタイム制」があります。自由な働き方ができる一方で、セルフマネジメントが重視されることになります。

裁量労働制

実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定めた労働時間分を働いたとみなす制度。

こちらもフレックスタイム制度と同様、比較的自由な働き方ができる一方、残業を短時間に収め成果を出すことが求められます。

場所的制約

冒頭で述べたようなコロナ禍におけるテレワークへの切り替えは、場所的制約を緩めることで対応した代表的な例です。

自宅で仕事をすることを求める「在宅勤務」をはじめ、カフェやコワーキングスペースなど仕事する場所を自由に選べる「モバイルワーク」と呼ばれる形態、観光地やリゾート地で余暇も楽しみながら働く「ワーケーション」など、テレワークも細分化されるようになってきました。

また、オフィスの中であっても、場所的制約にグラデーションを持たせることができます。

従来型のオフィスが一人ひとりに決まった座席を割り当てていたとすれば、最近では、決まった座席を設けないで空いている席を自由に使用できる「フリーアドレス」も見られるようになりました。「どこで働くか」という場所の制約もまた、効率よくいきいきと働くために重要な要素なのです。

企画職などの対面コミュニケーションが鍵となるような職種、デザイナーやエンジニア、ライターなどの個人で集中した方が効率のいい職種、ソフトウェア開発など高いセキュリティレベルが求められる業種……業務の内容や性質によって、社員が最も効率よく働ける掛け合わせは異なります。

次章以降で説明する、具体的なワークスタイルの概念やそのメリットとデメリット、活用方法などもあわせてご覧いただき、自社や自分のワークスタイルを考える上でのヒントにしてみてくださいね。