
Vol.52 株式会社MOTA
東京都港区赤坂2-4-6 赤坂グリーンクロス 22階
自動車流通領域を中心に事業を展開する株式会社MOTA。情報の非対称性によって生じる不安や不利益を解消し、人々がより納得感のある意思決定を行える社会の実現を目指してサービスを提供しています。
2026年4月、同社は赤坂グリーンクロスへ本社を移転。今回の移転は組織の意思決定スピードを高め、新たな価値創出を加速させるための戦略的なプロジェクトとして進められました。AI時代だからこそ人が集う意味を問い直し、「最速で価値を生み出す場」をコンセプトに設計された新オフィスについて、執行役員 プロダクト統括本部 本部長の高木様にお話を伺いました。

執行役員 プロダクト統括本部 本部長 高木 康正様
フェアな選択機会を社会へ
――御社の事業内容を教えてください。
我々は「世界中に、もっとフェア・トレードを。」というミッションを掲げ、ライフイベント領域において事業を展開しているDXカンパニーです。人生を左右するような大きな意思決定や取引の場面で、より公正で納得感のある取引機会を提供することを目指しています。
現在は自動車流通の領域を中心に、「MOTA車買取」を主軸として、「MOTA車買取サポート」や「MOTAあんしん決済」といった付帯サービスを展開しています。これらに共通しているのは、カスタマーとクライアント(※)という二者間において、どちらか一方の情報や利益が偏らないようにすることです。情報の非対称性によって生じる不安や不利益を、仕組みとして解消することに注力しています。
※MOTAでは車を売却する個人をカスタマー、車買取事業者をクライアントと呼ぶ。

最速で価値を生み出すオフィスを
――移転に至った背景や目的を教えてください。
今回の移転は、単なる増床やオフィスの拡張ではなく、組織の意思決定スピードを高めるための投資として位置づけています。
掲げている売上目標を実現するためには、既存事業の成長に加え、新規事業の創出をこれまで以上のスピードで進める必要があります。また、AIの台頭により情報収集や分析は急速に効率化されていますが、最終的な意思決定は人が担う領域であり、この判断スピードこそが事業成長を左右すると考えています。
そのためには、部門を超えて迅速に認識を揃え、その場で議論し即座に意思決定できる環境が必要でした。新オフィスを、MOTAの成長を加速させる「意思決定のエンジン」と位置づけ、構想を進めていきました。

――今回の移転プロジェクトは、どのような体制で進められたのでしょうか。
前オフィスに対する課題が見え始めたのが昨年初旬であり、今期どのようにオフィスを捉えるべきかという議論が経営層でなされていました。そこから実際に動き出したのが昨年4〜5月頃で、物件の検討などを行いました。
プロジェクトの推進体制としては、経営陣を中心に、人事・総務・経営企画・PR部門などが連携して進行しましたが、実質的なコアメンバーは2名のみでした。私がプロジェクトオーナーを務め、総務の栗原が社内外の調整や予算管理、ベンダーとのやり取り、社内通知などのハブとしての役割を担いました。
――前オフィスではどのような課題感が見えていたのでしょうか。
事業成長に伴い組織規模が拡大する中で、従来のオフィス環境では事業推進に必要なコミュニケーションの量と質を十分に担保しづらくなっていたことが課題でした。従業員体験(EX:Employee Experience)が十分とは言えず、通信環境などの課題も重なったことで、出社しても生産性や意思決定スピードの向上につながりにくい側面がありました。
また、週2〜3日出社を基本としていたこともあり、オフィスの稼働率が低く、十分に活用できていませんでした。
こうした状況を受けて、成長する組織にふさわしいコミュニケーション環境や意思決定の仕組みを整え、オフィスそのものの価値を高める必要があると考えました。単なる「働く場所」ではなく、より良い体験と意思決定を生み出す場へと転換することを目指したのです。
EXの観点では栗原が「従業員が会社に来ることで、いかに良い体験を得られるか」を重視して検討を進め、私は経営戦略とオフィスデザインを結び付けながらコンセプト設計を担い、それぞれの領域を兼ね備えながらプロジェクトを推進していきました。

AI時代だからこそ人が集う
――オフィスに込めたコンセプトや想いを教えてください。
「最速で価値を生み出す場」をコンセプトに掲げ、施工会社やデザイン会社と連携しながらオフィスを設計しました。ただ、私たちが目指したのは単純なスピードの追求ではなく、カスタマーとクライアント双方の声を起点に、部門を超えて迅速に議論し、意思決定から実行までを一気通貫で行える環境をつくることです。そしてそれをサービス改善や新しい価値につなげていく、その一連の流れを組織の文化としていきたいという想いがこのオフィスに込められています。
やはりAIによって実行スピードが加速する時代だからこそ、人が集まる意味がより明確になると考えています。社員が集うオフィスというのは、単なる作業の場ではなく、一人ひとりが問いを立て、対話し、判断するための場です。新オフィスでは、個人の力量に依存する組織から、仕組みによって価値創出が生まれる組織への進化を目指しています。分断されていた前オフィスの環境から、より多くの共創を生み出せる環境へ、調整中心の働き方から自律的に動ける働き方へと転換していく。その変化をこのオフィスで起こしていきたいと考えています。

ZENITH:ランチタイムや休憩時に偶発的な対話が生まれるカウンタースペース
――新オフィスではどのような働き方を採用していますか。
オフィスのデザインでは、分断型から共創型への転換として、壁を一切取り払いました。以前のオフィスでは執務エリアと共創スペースが明確に分かれており、自動ドアを介して行き来する構造になっていました。当時は組織規模も小さく、それぞれの役割を分けることで働きやすさを確保できていましたが、組織の成長に伴い、その在り方が課題となっていきました。
そこで新オフィスでは壁を取り払い、執務エリアと共創エリアをシームレスにつなげています。職種や業務特性に応じた柔軟性を持たせながらも、必要な時にすぐ集まり、対話し、意思決定できる環境へと転換しました。
情報共有自体はオンラインでも可能ですが、ちょっとした相談や立ち話から新たなアイデアや意思決定につながる場面は、やはり対面の方が生まれやすいと感じています。
AIが担う領域が広がる一方で、人に求められるのは判断や優先順位付けといった本質的なリスクテイクの役割です。そのスピードを高めるため、対話や集中、共創を支えるような場としてオフィスを設計しました。

――拠点を赤坂グリーンクロスに構えることになった経緯を教えてください。
移転先の選定には多くの時間をかけました。特に重視したのは、社内の環境というところです。組織の成長を受け止められる十分な広さ、社員が集まりやすいアクセス、そして安心して働けるセキュリティの3点を意識して選定しました。
加えて、MOTAは取引先や採用候補者、メディア関係者など、多様なステークホルダーとの接点を持つ会社です。そのため、利便性だけでなく、来訪者の導線や執務エリアの安全性なども重要な判断基準となりました。
共創を促す空間設計
――どのようにコンセプトをレイアウトや内装デザインに落とし込んでいったのでしょうか。
大きなポイントは、分断をなくしながらも、エリアごとの役割を明確にしたことです。
オフィス全体の長方形の形状を活かし、来客エリアと執務エリアで明確なコントラストを持たせています。来客エリアを「静」、執務エリアを「動」と位置付け、それぞれ異なる表情を見せる空間としました。
来客エリアは整然とした無機質なデザインを採用し、落ち着きや信頼感を感じられる空間にしています。一方の執務エリアは植栽や温かみのある素材を取り入れ、人の動きやコミュニケーションが生まれる活気ある空間に仕上げました。
さらに執務エリアの中でも、「賑わいエリア」と「集中エリア」をそれぞれ設けています。営業や企画、マーケティングなどコミュニケーションが重要な部門は賑わいエリアに配置し、小規模な打ち合わせができるテーブルや昇降デスク、ホワイトボードなどを設置しました。一方で、人事や総務、開発部門など集中して業務に取り組む職種は集中エリアに配置しています。


COCOON:ノイズを抑えた集中ゾーン
また、会議室にもそれぞれ名称を付けている中で、「AURORA(オーロラ)」と名付けた共創スペースでは、昼はカジュアルにお茶を飲みながらオープンなディスカッションができる空間として、夜はお酒を飲みながら交流を深められる場として活用できるよう設計しています。

――来客エリアを「静」、執務エリアを「動」に分けられた理由を教えてください。
来客エリアには、MOTAという会社に対する信頼感を感じていただける空間であってほしいという想いがあります。今後さらなる事業成長を見据える中で、取引先や採用候補者をはじめ、より様々な方にご来訪いただく機会が増えていくと考えています。

また、私たちが目指しているのは、人生における大きな意思決定を支える事業です。だからこそ、サービスだけでなく企業そのものに対する信頼感も重要だと考えています。そのため来客エリアは家具や照明、素材選びに至るまで細部にこだわり、企業としての信頼性や品格を感じていただける空間として設計しました。
一方で執務エリアは、人と人との対話や共創が生まれる「動」の空間として、両者に明確なコントラストを持たせることで、それぞれの役割をより強く表現しています。

OCEAN:対話を促し、”ちょっとしたコミュニケーション”が取れるエリア

――プロジェクトオーナーの目線で、移転に際して印象的だったエピソードを教えてください。
今回の移転で特に苦労したのは、経営の描く理想をどのようにオフィスという空間に落とし込むかという点でした。
「意思決定のスピードを高めたい」「社員が自然と集まりたくなるオフィスにしたい」といった想いは非常に重要ですが、そのままでは抽象的です。そのため、それらをどのようなレイアウトや導線、空間設計によって実現するのかを考え続けたことが、プロジェクトの中でも特に印象に残っています。
対話が生み出す意思決定力
――御社ではオフィスをどのような場所として位置付けているのでしょうか。
私たちは、オフィスを単に出社するための場所とは考えていません。オフィスとは、社員一人ひとりが最大限に活用しながら、より質の高い価値を最速で生み出していくための場所です。
近年はAIの活用が急速に進み、業務の効率化が進んでいます。しかしその一方で、人にしかできない判断や意思決定、創造的な対話の重要性は、むしろ高まっていると感じています。
だからこそ私たちは、オフィスを「人が価値を発揮するための場」として位置付けています。社員同士が日々を送る場所として、より生産性高く、楽しく仕事ができて、より大きな価値を生み出せる環境をつくることが、オフィスの役割だと考えています。

――実際に意思決定を進めたり、社内の共通認識を揃えたりするために、どのような取り組みを行っていますか。
オフィス設計そのものとは別に、組織文化を醸成するためのさまざまな取り組みを行っています。
代表的なものが、月に一度開催している全社総会「マンスリーミートアップ」です。経営方針や事業戦略、重要な意思決定について全社員へ共有し、組織として同じ方向を向けるように活動しています。
また、社員同士で感謝の気持ちを伝え合う「Thanks Card」の制度も導入しています。日々の業務の中では見えづらい貢献に光を当てることで、相互理解や信頼関係の醸成につなげています。


Thanks Cardは社内デザイナーが作成。
さらに、部門や職種を超えた交流を促進するために、「Pizza MOTA」「Club MOTA」「Study MOTA」という3つの取り組みも実施しています。
「Pizza MOTA」は部署を超えたコミュニケーションや共創を促す場、「Study MOTA」は学びの機会を提供する場、「Club MOTA」は社員同士がプライベートな時間も含めて交流できるコミュニティ活動です。
こうした取り組みを通じて、職種や部門の垣根を越えた接点や学びの機会を生み出しています。
また、MOTAでは顧客の声を事業成長の原点として捉えています。私たちはBtoBtoCの事業モデルを展開しているため、クライアントとカスタマーの双方に価値を提供しなければなりません。そのため、双方の声を正しく把握し、迅速に事業へ反映することを重視しています。その考え方の中心にあるのがVOCC(Voice of Customer & Client)です。

現場で得られる顧客の声は、カスタマーやクライアントに近しい人材だけが持っている情報になりがちです。しかし、その情報を組織全体で共有しなければ、本当に価値のあるサービス改善にはつながりません。
だからこそ、オフィスでの日常的な対話を大切にし、営業が得た顧客の声を企画や開発が自然にキャッチアップして、それをスピーディーにサービスへ反映していく。その循環を生み出す場として、オフィスを活用しています。

組織を育むオフィスの力
――今後の事業展望と今後オフィスに期待する役割だったり今後の展望を教えてください。
今後は自動車領域にとどまらず、ライフイベント領域全体へと事業を拡張していく予定です。その中でも、人生の大きな意思決定を、より安心で納得感のあるものにしていくことが、私たちの根底にある考え方です。
私たちが目指しているのは、ライフイベントにおけるさまざまな意思決定の場面で、公正な選択機会を提供することです。その背景には、情報の非対称性や不透明な商慣習、売り手と買い手の間に存在する不信感など、社会に根付くさまざまな課題があります。私たちはこうした「不」を解消することを事業の中核に据えています。
例えば車や住宅など、大きな資産に関わる取引では、安心して任せられる相手かどうかも重要になります。その際に障壁となるのが情報格差や不信感です。私たちはテクノロジーを活用しながら、そうした課題を解消し、より納得感のある選択体験を提供していきたいと考えています。

また、AIをはじめとしたテクノロジーの進化は今後さらに加速していくでしょう。しかし私たちは、AIを単なる効率化のためのツールではなく、人がより本質的な判断や創造的な活動に集中するための基盤として捉え、活用していく考えです 。
オフィスについても同様に、今回の移転は、「最速で価値を生み出す場」というコンセプトを体現する組織へ進化していくための第一歩として、人がより本質的な判断に集中するためのインフラのような役割として捉えています。
これから事業規模や働き方が変化していく中でも、オフィスの在り方は継続的にアップデートしていく予定です。私たちは、場所が組織をつくり、組織が事業を成長させると考えています。その循環を生み出すことが、オフィス戦略の本質です。

そして何より大切にしたいのが、「MOTAらしさ」です。
誠実であること。挑戦を恐れないこと。そしてフェアであること。そうした価値観を、サービスや事業だけでなく、社員の働き方やオフィス空間にも一貫して反映していきたいと考えています。
事業領域が広がっても、この価値観の一貫性こそがMOTAの競争力の源泉になると考えています。将来的には、人生の大きな選択を考えたときに真っ先に思い浮かべていただける存在になることを目指しています。
その実現に向けて、オフィスもまた企業文化を育み、新たな価値を生み出し続ける基盤であり続けたいと考えています。
――この度は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。
編集後記
オフィスを執務空間としてだけではなく、人が担うべき判断や対話に集中するためのインフラとして捉え、その役割を再定義されていた点が印象的でした。AIによる業務効率化が進む中でも、人とAI、それぞれの強みを活かせる環境づくりを見据えたオフィスには、これからの働き方のヒントが数多く詰まっていると感じます。
このたびは素敵なオフィスをご紹介いただき、ありがとうございました。
インタビュー・編集/志野
撮影/平井(一部画像提供:MOTA)

