Sansanが創出する出会い オフィス移転をブランディングの機会に

Vol.42 Sansan株式会社

東京都渋谷区桜丘町1-1 渋谷サクラステージ 28階

https://jp.corp-sansan.com/

直近3年で社員700名増と急成長するSansan株式会社。創業からオフィスを大切にしてきた同社の10年ぶりの本社移転と、移転を最大限に活用したブランディングについて、プロジェクトメンバーの加賀谷様・長倉様にお話を伺いました。

コーポレートブランディング室 企業広報グループ マネジャー 長倉 紀子様(左)/コーポレート本部 オフィス戦略部 マネジャー 加賀谷 洋輔様(右)

強みのOCR技術を活用したDXサービスで躍進

――直近3年で700名の増員をされたそうですが、成長している事業領域について教えてください。

長倉:弊社はビジネスインフラになることを目指し、様々なビジネスシーンにおいて働き方を変えるDXサービスを展開しています。主力は名刺管理サービスを起点とした営業DXを実現する「Sansan」ですが、近年非常に伸びているのがインボイス管理サービス「Bill One」や、契約データベース「Contract One」です。採用については「Bill One」や「Contract One」の事業部に注力しながらも全方位的に行っています。

――御社の現在の働き方について教えてください。

加賀谷:弊社はオフラインでのコミュニケーションやそこから生まれるイノベーションや生産性を重要視しています。2021年には「オフィスセントリック」という、リモートワークを併用しつつオフィスを起点とする働き方を打ち出しました。現在、ビジネス職は原則週3日出社しており、曜日によるばらつきはありますが、平均して約6~7割の社員が出社しています。執務エリアはグループアドレス(※)を採用しています。

グループアドレス:部署ごとに定められた座席内でのフリーアドレス

新オフィスは29階~32階が執務エリア

専門部署がオフィス戦略を担う

――オフィス戦略部は日常どのような業務を管轄されていますか?

加賀谷:普段はオフィスにまつわる様々な依頼に対応をしています。今回の本社移転のような長期のプロジェクトや各支店の移転・増床なども担当しています。採用計画を考慮したオフィス戦略の設計や、より出社したくなるオフィスを目指して施策を検討しています。

――今回の本社移転の経緯について教えてください。

加賀谷:事業拡大と人員増加に伴い、もともと表参道・青山エリアに4拠点あったオフィスを1拠点に集約したいという考えがあり、長期にわたって移転先を検討してきました。

会社の成長スピードに見合うオフィスを求めて

――どのような条件で新オフィスをお探しになりましたか?

加賀谷:事業拡大に伴う採用強化と、3年で700名社員増というペースに対応できるオフィスという点を最重要視しました。採用計画をベースにしながら3年後の社員数や出社率を考慮し、必要面積を算出しました。様々なオフィスビルを内見し、2023年7月に渋谷サクラステージへの入居を決定しました。

――渋谷サクラステージへの入居の決め手は何でしたか?

加賀谷:渋谷最大級の新築オフィスということもあり、採用強化や人員増加に対応できること、また、桜丘という場所が新たな出会いやビジネスが生まれる渋谷にありながらも自然と共存できる環境で、私たちが掲げる「出会いからイノベーションを生み出す」というミッションにも親和性が高いと判断しました。

――いつ頃からどのようなメンバー構成で移転プロジェクトは始動しましたか?

加賀谷:2023年8月頃に移転プロジェクトが発足しました。オフィス戦略部をはじめ、人事・総務・情報システム・情報セキュリティ・マーケティング・広報の分野から合計約30名が参加し、移転プロジェクトを進めることになりました。

――社員の皆様から新オフィスへのご要望はありましたか?

加賀谷:出社時にしっかりコミュニケーションがとれる場所を確保してほしいという声や、商談スペースが少ないため個室ブースを多くつくってほしいという声がありました。また、入居フロアが高層階のため、ランチタイムの移動に時間がかかるという課題をプロジェクトメンバーで予測し、その解決策として無人店舗の設置を進めることとなりました。

自然から受け取る活力

――新オフィスのコンセプトについて教えてください。

加賀谷:コンセプトは「Nature」です。自然の豊かさから活力を受け取って本質的な活動を生み出せるようなオフィスにしたいという想いが込められています。

――設計や内装デザインで工夫されたポイントを教えてください。

加賀谷:コンセプトが「Nature」だからといって、植物をたくさん置けば良いわけではありません。開放的な空間にするために抜け感を意識して設計しました。床材は環境に配慮したリノリウムを採用し、単色ではなく貼り分けることで空間にアクセントをつけています。

28階は「Park」と名付けられたコミュニケーションエリアが広がる ランチや休憩にも利用できる

加賀谷:「Park」には12mの巨大なLEDスクリーンがあり、「Park」内にある植物とデジタルで表現する自然との調和が楽しめます。スクリーンを使った月2回の全社会議や社内外の交流イベントなどにも利用されています。執務フロアには各フロアに6ヵ所ずつプロジェクタースクリーンを設置し、自席からでも全社会議が視聴できたり、事業部会などに対応できるようにしました。

加賀谷:28階には来客会議室が全部で25室あります。場所を分かりやすくしてほしいという声と「Nature」というコンセプトにちなんで自然にまつわる室名にしてはどうかという社員からの案を組み合わせて、アルファベット順になるよう名付けました。

Aurora・Beach・Canyon… とA~Wが頭文字の会議室が並ぶ

「Garden East」と「Garden West」はセミナーも開催可能

フロア間をつなぐ内階段 移動時の出会いやコミュニケーションを大切に

Sansanのこれまでの軌跡を壁に

コミュニケーションを促進する施策

――出社したくなる仕掛けはありますか?

加賀谷:社内の交流施策としてこれまであった制度を拡充しました。
よりよいコミュニティを生み出すことに由来して名付けられた会社公認の部活動「よいこ」の数が増えました。また、終業後に複数名で交流する際に1人につき1日3本までドリンクが飲める「ヨリアイ」は、冷蔵庫も大きくなり充実しました。帰り道に「Park」で同僚と少し飲んで帰るということがしやすくなりました。

オフィス移転をブランディングに最大化

――今回のオフィス移転は、広報面でどのような位置づけでしたか?

長倉:弊社はIT企業でありながら、創業当初からオフィスで生まれる対面のコミュニケーションを非常に大切にしてきました。そんな私たちが10年ぶりに本社を移転するということで、大切にしてきたオフィスの移転を社内だけではなく社外に向けたブランディングにも活用できないかということが議論の始まりでした。ブランディングの方針については代表とも定期的に話し合う機会がありましたので、ただ移転し、挨拶状を出して祝花をいただいて終わりではなく、ブランディングの機会として最大化すべきという目線を合わせることができました。

――「渋谷阿波おどり」はどのような経緯で開催することになりましたか?

長倉:弊社は2010年からサテライトオフィスを徳島県神山町に構えているほか「神山まるごと高専」の開校支援を行うなど、阿波おどり発祥の地である徳島県に深いゆかりがあります。より徳島県での認知度を高め、地域のDXに貢献する目的で、2024年夏には本場の阿波おどりの演舞場のネーミングライツパートナーとして協賛を行いました。阿波おどりには、初対面の人同士の出会いをぐっと深める不思議な力があります。私たちが掲げる「出会いからイノベーションを生み出す」というミッションとも親和性が高く、阿波おどりをメインコンテンツにしたお祭りができれば、渋谷の街で人と人、企業と企業との出会いを生み出せるのではないかと考えました。

長倉:私たちだけでイベントを行うよりも、このサクラステージを開業され、長い間渋谷という街一帯を開発してこられた東急不動産様と一緒に開催させていただくことで、渋谷周辺の企業様や多くの人を巻き込んだイベントにできると思い、共催をご相談させていただきました。入居まで一緒に伴走してくださった貸主ご担当者様が一緒に盛り上げましょうと言ってくださって共催が決定し、9月初旬に渋谷阿波おどりの開催を発表することができました。

――イベント実現に向けて大切にされたことは何ですか?

長倉:まず、ひとりよがりではなく東急不動産様との共催を前提とし、渋谷桜丘のステークホルダーの皆様と共にお祭りを盛り上げたかったということです。東急不動産様には会場の提供および入居テナント様とのコラボ企画の調整などを行っていただき、私たちはコンテンツ企画・クリエイティブ・オペレーション設計を担いました。渋谷阿波おどりプロジェクトはコーポレートブランディング室のメンバーを中心に始動し、広報やクリエイターが一丸となり企画を進めていきました。企画が固まっていくなかで、ユーザーを対象としたマーケティング施策や、社員の家族を招待するインターナル施策も加わり全方位的に広がっていき、マーケティング部や人事部のメンバーも加わって、最終的には全社的なプロジェクトとなりました。
移転のお祝いといえば胡蝶蘭をいただくことが一般的かと思うのですが、私たちは祝花を辞退させていただき、代わりにお祭りの会場を彩る名入れ提灯に協賛いただけないかというコミュニケーションを選択しました。また、サクラステージのサイネージ広告へのロゴ掲載や、サクラステージ及び周辺の飲食店のフード・ドリンクチケットがついた協賛プランも用意し、数百社の企業様に賛同をいただくことができました。

当日はサクラステージ全体を名入れ提灯が彩った

――イベント開催後の反響はいかがでしたか?

長倉:目標を大幅に上回る来場者数を達成することができ、私たちも東急不動産様も非常に驚くとともに社内外の来場者様にも喜んでいただき、双方にとって良い結果となったと思います。当日は私たちの新オフィスでも縁日を開催し、社員の家族にも好評でした。「雨の週末にも関わらず集客できた」とサクラステージの飲食店などテナントの店舗の皆様にも喜んでいただきました。本当に微々たるレベルではありますが、地域の経済に貢献できたという点は、ビジネスインフラになることを掲げている私たちにとっては嬉しい結果となりました。
お祭りの前日にはユーザー企業様や協賛企業様を招待した前夜祭を行ったのですが、そこからアップセルや受注をいただいたり、移転して早々のタイミングで同ビルに入居されている化粧品メーカー様や周辺施設の飲食店の皆様とコラボ企画ができたことはとても喜ばしく、この出会いをきっかけに渋谷周辺のビジネスを盛り上げていけたらと思います。全てにおいて前例がなく、準備期間も2ヶ月しかなかったなかで、自分たちで仮説を立てて正解を見つけていく過程は大変でもありとてもエキサイティングでした。

出会いを生み出すオフィスへ

――新オフィスを通じて、社員や社外にどのようなことを発信していきたいですか?

加賀谷:移転前は複数の拠点に分散していましたが、移転して東京拠点の社員は同じビルに集約することができ、オフィスセントリックをより推進していける環境になりました。新オフィスを活用して、さらに社員同士のコミュニケーションを促進させていきたいと考えています。また、渋谷駅直結ということで社外の方々にもご来社いただきやすくなったため、弊社らしいおもてなしやユニークな体験をしていただけるような取り組みを考えていきます。新オフィスをフル活用して社内外の出会いを生み出していきたいと考えています。

――この度は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。

編集後記

オフィス移転にも渋谷阿波おどりにも「出会いからイノベーションを生み出す」というミッションが根底にあり、一貫したブランディングに繋がっていると感じました。「ミッションが会社の最上位の考えなので、迷ったらそこにたちかえります」というお話が印象的でした。新しいオフィスへの移転をきっかけに、会社が大切にしている考えが社員にも周辺企業にも街を行き交う人々にも波及していく、そんな大きな可能性を感じるインタビューでした。

インタビュー・編集/服部
撮影/平井