住む場所にとらわれない働き方|株式会社ベイジ

Webサイトの表面的なデザインではなく、クライアントの事業や組織をロジカルに紐解きデザインすることに定評があるWeb制作会社ベイジ。コロナ禍でリモートワークが定着した現在の社内コミュニケーションの工夫や、福岡移住へのご決断について代表の枌谷様・仁尾様ご夫妻にお話を伺いました。

右:代表取締役 枌谷力(そぎたにつとむ)様/左:役員 仁尾雅子(におまさこ)様

下北沢にオフィスを構えて12年

――創業からこれまでのオフィスについて教えてください。

枌谷:2021年現在で弊社は創業12年目になりますが、オフィス移転は1度だけ経験しました。最初は下北沢のマンションの地下に5名くらいが勤務できるスペースを借りて4年間過ごしました。その後、現在入居中のTOKYU REIT下北沢スクエアの3階に移転し、社員が10名規模になる手前で同ビルの2階を増床しています。

――なぜ下北沢にオフィスを構えようと思われたのですか?

枌谷:Web制作会社は渋谷中心にオフィスを構える企業が多いので渋谷界隈も探してはみたのですが、やはり賃料相場は高い状況でした。それに比べて下北沢は京王井の頭線急行で渋谷から4分程と近いにもかかわらず賃料がリーズナブルで魅力的でした。渋谷駅から徒歩15分ほど離れた場所にオフィスを借りるより下北沢駅すぐのオフィスを借りた方が通勤の効率がよいため、下北沢駅から徒歩1分という立地を気に入ってオフィスを借りることに決めました。当時、私たち夫婦は永福町に住んでいたため、自宅から通いやすかったということも理由の1つです。

仁尾:現在のオフィスであるTOKYU REIT下北沢スクエアについては、創業当時から「このビルに入居できるくらい会社が大きくなればいいね」という話をしていたので、会社が成長して最初のオフィスでは手狭になった際に、家賃の面では少し背伸びだったのですが、すぐにこのビルへの入居を決断しました。

――コロナ禍以前のオフィス探しでは何を重視されていましたか?

枌谷:社員が通勤しやすいことやランチで外食する際にあまり並ばなくてよいことなど、立地は一番重視していましたね。下北沢はオフィスビルが少ないので、平日の日中は行き交う人も少なく、住むのにも快適なエリアです。ランチの値段も手頃で選択肢も多くありがたいです。

仁尾:現在、オフィスから徒歩圏内で1人暮らしをしている社員も多くいます。電車で通勤するにしても、通勤ラッシュとは逆の方向なので混雑を避けられます。通勤のしやすさと生活のしやすさ両方が大切だと考えていました。

――オフィス内装についてはどのようなことを重視されましたか?

仁尾:内装については私が中心となってやりとりさせていただき、2~3社ご提案をいただいたのですが、デザインで決めたというよりは、常に私たちの半歩先をいく提案をしてくださった親切な営業の方を気に入ってご依頼する内装デザイン会社を決めました。その営業の方は物件の内見も一緒に来てくださり比較検討も一緒に行うなど自らご提案してくださいました。

枌谷:自分たち自身がデザインに関わる仕事をしている経験から、内装デザイン会社を決めるにあたり、ビジュアルの提案力よりコミュニケーションのスムーズさを大切にしました。また私たちはクリエイター集団なので、オフィスのデスクは大きくゆったりとしたものを選び、自宅で仕事をするよりもはるかに捗る環境を作ることは大切にしましたね。

リモートワークで大きく変化した採用

枌谷:現在のオフィスの座席は18人分なのですが、コロナ禍で居住地や勤務地に縛られずに採用が可能になったことで社員数が倍増し、2021年10月で社員が30名になります。社員が増えればオフィスも拡大しなければならない、良い人材がいても座席を確保できなければ移転先を探すところから始めないといけない、というこれまで当然だった概念がなくなったことは経営的には大きな変化です。
また、オフィス出社を必須としないことで、全国から採用することが可能になりました。出産や育児で一時的に仕事をお休みされている方や、短時間なら働きたいという優秀な方・スキルの高い方は、全国を探せばたくさんいらっしゃると思います。弊社のカルチャーと合い、一緒に気持ちよく仕事ができる方ならぜひ仲間になっていただきたいと考えています。このような採用をリモートワークは可能にしてくれました。

リモートワークの不安を解消する工夫

――コロナ禍で御社の社員の皆様の働き方はどのように変わりましたか?

枌谷:コロナ禍以前、私はリモートワーク消極派だったのですが、新型コロナウイルスの感染拡大が始まり、2020年3月には全社にリモートワークの指示を出しました。最初の1ヵ月ほどは「仕事がとてもやりづらくなるのではないか」とか「誰かが困っていたり苦しんでいることに気付けないのではないか」というそこはかとない不安はありましたね。

――その状況をどのように工夫しながらリモートワークを継続してこられましたか?

枌谷:「Discord」という音声チャットアプリ上にバーチャルオフィスを作ってから、弊社のリモートワークの不安は一気に改善していきました。バーチャルオフィス内に執務スペース、大会議室、小会議室、編集会議室、1on1ルーム、ランチルーム、雑談ルームなどを設け、各自が自分のアイコンを移動させて今どこで仕事をしているかを可視化しています。また、バーチャルオフィス上で同じ部屋にいるメンバーにはマイクをONにすれば話しかけることが可能です。

多くのオンライン会議ツールではURLを発行してそこに来てもらわないと会話がスタートできませんが、Discordだとこの手間がなく、同じ空間のすぐそこにいるような気軽な感覚で話しかけることができるので、この仕組みは画期的でした。コロナ禍で入社したメンバーも不自由なくコミュニケーションがとれている1つの要因は、このツールを利用しているからだと思います。

枌谷:このバーチャルオフィスを作ってから、みんなが集まって朝礼をするようになりました。朝礼では業務の予定やその日のイベントが共有される他、当番制で社員が仕事以外の小話をする機会を設け、失ってしまった雑談の代わりに人となりを理解するきっかけにしています。話題は好きな音楽やアニメ、YouTubeチャンネルやゲーム、育児まで様々です。
また、以前から自社の知見を言語化して皆が見える場所にアップする習慣もありましたので、コロナ禍によって急速にリモートワークにシフトしても社内のナレッジ共有は円滑に進み、失速することなく成長できたのかもしれません。

福岡への移住を決断

――福岡への移住をされると伺いましたが、ご決断に至った経緯についてお聞かせください。

仁尾:リモートワークが定着してきたこともありますし、今後の人生を考えた時にずっと東京に住み続ける必要があるのかという想いが私たち夫婦の中で急浮上してきました。「福岡に住んでみるのもいいかもね」という主人の言葉がきっかけで「そうか、今の時代はそれができるのか」と思い、2020年の秋くらいに福岡への移住を決断しました。そこからどんどん話が進んでいきましたね。

――なぜ移住先として福岡を選ばれたのですか?

枌谷:妻の故郷が福岡で、福岡の文化が私も好きだったという点が大きな理由です。福岡に移住しても、東京のオフィスまでドアtoドアで2時間半から3時間で到着できます。であれば、もし緊急事態が起きて東京に行く必要ができたとしても問題ないと思いました。関東地方の郊外に住むのと福岡の中心部に住むのとでは、東京都心部への通勤時間はさほど変わらないかもしれませんね。
それと、社員にも好きな場所に住んで働いてほしいと伝えていますので、まずは私たち自らが率先してそれを試したいという考えもありました。

仁尾:結婚した当初は主人は東京の会社員だったので、一時的に東京に住むけれどいずれは福岡に戻って暮らそうね、という話をしていました。いつの間にか東京の生活に染まって東京が好きになっていたのですが、コロナ禍での働き方の変化がきっかけとなって、当初の気持ちが再浮上してきた感じです。
実家の親も高齢になってきて、近くに住みたいと思ったのも理由の1つです。それと、家を買うなら戸建てがいいとずっと思っていましたが、同じ値段であれば東京の都心に建てるよりずっと広い家を建てることが可能なことも福岡の魅力でした。

――東京に住みながらの福岡でのマイホーム探しで、苦労されたのはどんな点ですか?

枌谷:土地を探すのが一番大変で、半年弱かかりましたね。インターネット上で候補となる場所を見ても、それだけでは魅力的な土地なのかが分からず苦労しました。

仁尾:東京では食事をして車で10分ほどで帰宅できる場所に住んでいて、福岡でも現在の都会的なライフスタイルとギャップなく住める場所がいいと思っていました。ただ、それが福岡だとどこにあたるのか最初は分かりませんでした。福岡の中心部は思ったより土地が高かったり、土地を買うようなエリアではなくビルが立ち並ぶ商業エリアだったりして、探すのに時間がかかりました。最終的にはネットでよさそうな土地を見つけて、ほとんど決断してから現地を見に行きました。

枌谷:ハウスメーカーを先に決めていたので、この土地で本当によいと思うかアドバイスをいただきながら決めました。今月(2021年9月)着工して2022年4月に竣工予定です。

――今後移住されてからはどのような仕事スタイルになりそうですか?

枌谷:移住後は福岡の新居でのリモートワークがメインになるため東京の住居は解約しますが、2週間に1回くらいは東京に来たいと考えています。やはり人とのリアルなコミュニケーションは大切だと感じているので、東京に来た際には社員と会う時間を設けつつ、必要に応じてお客様ともお会いできればと考えています。

――移住に際して不安に感じていることはありますか?

枌谷:あまりネガティブなことは考えていません。東京のことも好きなので、福岡に住んでから「東京の方がよかったな」と感じる可能性もゼロではないですが、もしそうなったらその時にまた住みたい場所を変えればいいと割り切っています。それでも今は、自分たちの理想の家を福岡に立てて、10年は住んでみたいと強く思っています。なので心配事といえば、飼っている2匹の猫が新しい場所になじめるかがどうかだけでしょうか。引越しって猫にとっては大きなストレスだと聞きますので…。

仁尾:仕事とは関係ありませんが、18年近く東京に住んでいて、夫婦ともに美味しいお店に食事にいくことが大好きなので、東京と比べると落差や不満を感じてしまう自分がいるのではないかと思うことはありますね(笑)。ただ、東京にオフィスがあり出張する機会もあると思いますので、不安より楽しみの方が大きいです。

――今後オフィスについてはどうされるご予定ですか?

仁尾:現在賃貸しているオフィスはそのまま継続して入居する予定で、もし同じビル内でまたオフィス区画に空きがでてタイミングが合えば増床するかもしれません。

枌谷:弊社は100%リモートワークにはならずに、出社する人もいれば在宅の人もいるハイブリッド型の働き方が続いていくと思いますので、それに応じたオフィスの改装はもう少ししたら検討するかもしれません。また、全国で採用を続けるため、将来的にまとまった人数の社員が近くに住んでいるという状況になれば、成り行きで東京以外にもオフィスを構える話が浮上するかもしれませんが、現時点で計画を立てているわけではありません。

シナジー効果で成長を加速

――今後の事業の展望について教えてください。

枌谷:最近、弊社はクラスメソッド株式会社との資本提携を発表しました。弊社の株式の一部を譲渡し、私がクラスメソッド社のCDO(Chief Design Officer)に就任しました。お互い独立性を保ちながらタッグを組むことで、お客様に質の高いソリューションを提供できると考えています。

――どのような相乗効果を期待されていますか?

枌谷:クラスメソッド社はバックエンド領域(システムやサーバー側)に強いエンジニアがたくさんいらっしゃいます。弊社はフロントエンド領域(デザインやマーケティング)に強みがあります。両社のエンジニア・デザイナー間で勉強会をするなどナレッジ共有も考えています。お互いの強みを活かし、手薄なところを補完し合いながら、中長期的に成長を加速できると確信しています。

――さらなるご発展と、今後もSNSでのご発信を心から楽しみにしています。この度は貴重なお話をありがとうございました。

編集後記

オフィスへの出社が必須ではない方や出社頻度をコントロールできる方は、リモートワークの普及で住む場所の選択肢がぐんと広がりました。オンライン上のオフィスに皆が集まり、社内の繋がりを感じながらそれぞれの場所で働く。このような新しい働き方が、リアルな出社と共存しながらこれからどう発展していくのか目が離せません。

インタビュー・編集/服部
撮影/平井