自社のポリシーやブランドを表現 変化するVAIO株式会社の東京オフィス

Vol.7 VAIO株式会社

東京都港区赤坂9-5-14​ 赤坂ヒルサイドハウスⅡ 2階D

https://vaio.com/

2020年12月に品川シーサイドから赤坂に東京オフィスをご移転されたVAIO株式会社様。長野県安曇野にある本社はメディアに露出することはあっても、これまでの東京オフィスは外部に公開することはほとんどなかったそうです。今回のご移転ではコロナ禍で定着した働き方や自社の企業ブランドをオフィスに反映し、積極的に外部にも発信されています。ブランドやデザインの観点から新オフィスのプロジェクトを統括されたブランド&デザイン戦略グループ グループ長の黒崎様にお話をうかがいました。

 

邸宅のような佇まい。乃木坂駅から途中に細い階段があり、この先にオフィスがあるのかと期待が膨らむ。

 

コーポレート本部 ブランド&デザイン戦略グループ グループ長 黒崎大輔様

 

コロナ禍での東京オフィス移転プロジェクト

――2020年12月に新オフィスで業務を開始されましたが、いつ頃からご移転のお話は浮上しましたか?

黒崎:移転するかどうかの話は、契約更新の兼ね合いもあるため一昨年からでていました。ただ、具体的に新オフィスを探し出したのはコロナ禍になってからの2020年春頃です。長い選定期間を経て8月頃に移転先が決定しました。

――コロナ禍で働き方はどのように変化しましたか。

黒崎:弊社は去年の緊急事態宣言前からもテレワークを始めていましたが、コロナ禍で東京オフィスの勤務者は一時期、全員テレワークになり、エッセンシャルワーカーのみが出社する状態になりました。その後、だんだん折り合いをつけながらオフィス移転も経て、現在東京オフィスを利用する従業員が約60人いる中で大体常時20人ほどが出社している状況です。

――座席数を3分の1に減らされたそうですね。

黒崎:はい。テレワークが急速に普及しましたからね。我々はモバイルPCを製造しているメーカーのため、20年前からモバイルPCで業務を行っていましたからデジタル化・モバイル化というのは進んでおりました。そのため働き方のスタイルを大きく変化させる必要はあまりなく、その点、他の企業様よりスムーズにテレワークへの移行が進んだと考えています。

――20年も前からなのですね。在宅で勤務する上で、セキュリティ面での課題はありましたか?

黒崎:セキュリティ面はこのオフィスの特徴ともリンクしているのですが、今回の移転に伴い、自社の「ソコワク(VAIO株式会社が提供するリモートアクセスサービス)」というソリューションを全面導入しました。PCの個体認証により安全かつ簡単にリモート接続が可能になりセキュリティ面でもスムーズに移行することができました。

――会議のスタイルには何か変化がありましたか?

黒崎:弊社の場合、現在では基本「Microsoft Teams」を使うようになりました。少し前まではハードウェアのビデオ会議システムとTeamsを併用していたのですが、今回の移転時に処分し、新オフィスには持ってきませんでした。一時期、ビデオ会議システムとTeamsの2つを同じ会議で使うということを試しましたが、そうするとTeamsを利用しているテレワーカーが全然発言に参加できない雰囲気になったため併用しなくなっていきました。

オンライン会議を前提にディスプレイが見やすい台形のテーブルを採用。

 

――今回、東京オフィスの移転を通して、発信したいことや解決したい課題はありましたか?

黒崎:元々次のオフィスはどうしようかという話がありましたが、やはりコロナ禍の影響は大きく、出社日数は激減しても「テレワークでも十分働けるね」ということになりました。そこで、従来のオフィスとはもっと違う選択肢があるのではないかと検討することになりました。特に私たちはモバイルPCを通じて新しい働き方を提案している企業・ブランドですので、そういう働き方に自らチャレンジすることでお客様により良いご提案ができるのではと考えたことが、今回の移転のモチベーションになり、積極的にオフィスを変化させてみようというきっかけになりました。

――長野本社からは何か指示はあったのでしょうか。

黒崎:経営陣も東京と長野で半々という状況で活動しているため、本社の意向に沿ってという感じではないですね。ただ、トップマネジメントの中で新しい働き方ができるオフィスにトライしてみようということになり、大きく話が進みました。

企業ブランドをオフィスに表現

――黒崎様はご移転のプロジェクトにどのように関わられましたか?

黒崎:他のメンバーがオフィスを探して、移転先が見えてきたところで私がブランドの観点からプロジェクトに参加した形です。私はブランド&デザイン戦略グループに所属しているので、新しいトライアル、コンセプトの面からオフィスを企画して、これからの働き方に最適なオフィスを考えていきました。

――自分たちのブランドや働き方を反映したオフィスを企画されたということですね。

黒崎:はい。私が物件を選定したわけではありませんが、オフィス選びにも私たちの考え方が反映されていると考えています。私たちは、「機能」という理性的要素と、「美しさ」という感性的要素の両方を兼ね備えたブランドでありたいと考えています。格好いいだけでは違うと考えていて、機能性・アクセスの良さなどと感性を刺激するような環境が大切であり、今回の物件選びにも反映されていると考えています。

――物件選定の際にエリアは絞られていたのですか?

黒崎:六本木・赤坂に限定していたわけではありません。勿論、アクセスの良さは条件に入れていましたが、今回のオフィスのコンセプトの1つに「Inspire」というのがあって、街が与えてくれるパワーというものも意識して選定しました。ですので、青山・表参道・渋谷の他にベンチャー企業が集まっている五反田など刺激を与えてくれるようなエリアが候補にはありました。

――新オフィスを企画する上で、社員の方から要望として上がってきたことはありましたか?

黒崎:今回は、あらかじめ「これはチャレンジなんだ、実験なんだ」とドラスティックにやっていく方針を社員に伝えていました。これまでの移転とは違うというところから入ったので、細かな要望はあまりなかったですね。移転先が決まって、こんなファシリティを考えているけどどうか、という段階から社員に意見をききました。また、オフィスにわざわざ来る理由は部署によって異なるので、その観点で問題がないかを確認し、意見収集してオフィスに反映しました。

――黒崎様が移転プロジェクトを担当されてやりがいを感じたことや苦労されたことはありましたか?

黒崎:私自身が商品企画担当ということもあり、前例にない形のプロジェクトでしたので、これまでにないものを生み出すという面白さはありました。

――いままではオフィスのデザインや内装業者様とのやりとりの経験はありましたか?

黒崎:全くありませんでした。今回で4度目のオフィス移転ですが、今までは社内のデザインチームではなく外部のオフィス内装会社様のデザイナーにお願いしており、後からこうすればよかったという声が社内デザイナーからでることもありました。今回は、弊社のプロダクトやブランドなどにアドバイスをいただいているパートナーデザイナーにもプロジェクトに加わっていただき、アドバイスいただきながら、社内のデザインチームでオフィスをデザインしました。

――大変そうですが、とてもやりがいがありそうなプロジェクトですね。

黒崎:大変でしたね(笑)。ただ、パートナーのデザイナーの方の知見が深く、我々の意見を汲み取っていただき、提案を受けながら作っていったという形ですね。

固定席がないため、目的や気分にあわせてどこで仕事をするか選べる。

 

――新オフィスのコンセプトと、それに基づいてどのような工夫をされたか教えていただけますか。

黒崎:まず最初に「Inspire」・「Thin」・「Showcase」という3つのコンセプトを設定しました。「Inspire」は刺激をもたらしてくれる存在でありたいという想いがこめられています。場所選びから始まり、それを引き継ぐ形で内装やオフィスの存在自体が刺激を与えてくれるようなものにしました。在宅でのテレワークだと閉じこもりがちで毎日同じ場所・同じ働き方で刺激が少ないですが、オフィスに出社することで、人や街から刺激を受けてほしいと考えています。オフィスの中でも色々な働き方ができる工夫、多くの人と交わるような工夫を施しました。

日によって出社する人が異なり、隣に座る人が変わるので、偶然を楽しめる。 すぐ近くに代表が座っていることもあり以前より関係がフラットになったというお声も。

 

アウトドアブランドのテーブルとチェアを設置して実験中。奥には開放感のあるテラスが広がる。

 

オフィスがFatからThinの時代へ

黒崎:2つ目のコンセプトは「Thin」です。あまり聞き馴染みが無い言葉だかもしれませんが、私たちの業界では身近な言葉としてThin Client(シンクライアント)という言葉があります。Thin Clientとは、PC端末では限られた処理しか行わず、アプリの実行やデータ処理をサーバー側に任せる仕組みのことを指します。PC本体でアプリの実行やデータ保存ができる従来のPCはFat Clientと呼ばれ、対比されます。これになぞらえると、これまでのオフィスは非常に充実したファシリティがあって、「Fat」であったといえます。現在、働き方が多様化してきた中でオフィスの中だけを「Fat」にしてもあまり意味がないと考え、オフィスは物理的に極めて「Thin」に作っていき、リモートを含めた全てのワーカーが恩恵を受けられるようなクラウド的なファシリティを増やしていこうという思想を「Thin」という言葉で表現しています。

カウンターデスクの上にはモバイルモニターが設置可能。

黒崎:3つ目のコンセプトは「Showcase」です。VAIOの商品も1つの働き方の提案ですし、それとオフィスをセットにした時にどのような形にできるのかを表現したいという想いがこめられています。

窓際はカウンタースタイルの作業スペース。カウンターテーブルには脚がないので、好きな間隔をあけて座ることができる。

――ご移転から約3ヶ月たちますが出社される方は限られた職種・部門の方ですか?

黒崎:頻度にばらつきはありますが、エッセンシャルワーカーの方は頻繁に出社し、その他の社員は入れ代わりですね。

――毎日の出社状況は部署ごとに把握されているのでしょうか?

黒崎:緊急事態宣言中は、出勤者をある程度必要に応じて調整するために管理者として把握はしますが、業務上オフィスに出社しているかは重要ではなくなってきました。当初は出勤者が一目でわかるシステムが必要かどうかの議論もありましたが、とりあえずなしでやってみようと進めてきて、いまのところ必要性は感じていません。Teamsにアクセスした際に背景で出勤しているかがわかりますからね。

――オフィス移転をされて、良かったことや、感じられた変化はありましたか?

黒崎:一番感じているのは、働き方の選択が「フェア」になったことですね。旧態ながらのオフィスで自分の固定席があると、出社する必要が無くてもなんとなく毎日出勤していたと思うのですが、新オフィスになってからは固定席もないので、目的を持って出社するように変わってきました。また、会議が全部「Teams」になったこともあり、自宅から参加していても出社している人と対等な立場で議論ができるようになったと感じます。社内の大会議室に多数のメンバーがいて「Teams」で参加するリモートワーカーが少数だと意見が言いにくいところがありましたが、そういうところが無くなって家にいても会議で存在感を発揮して議論できる環境が醸成されました。オフィスを変えたことで、オフィス以外の働き方が変化したと感じています。また、移転前のオフィスよりアクセスが改善され、営業主体の社員が外出の途中に立ち寄りやすくなったと聞いています。

今回のオフィスは実験なので、トライアンドエラーを繰り返して自分たちで最適な働き方を探していきましょう、新しいオフィスの在り方を模索していこうという話を最初から社員にしていたので、あれもないこれもないといった話に繋がらず、前向きな改善に繋げていけた点が良かったと感じています。

黒崎:長野県安曇野の本社は私たちのモノづくりの魂が物凄く詰まったところなので、これまでメディアにも露出していましたが、過去の東京オフィスは外部に露出することは特にありませんでした。それが今回のオフィスに移転してからは私たちの精神を象徴するものとして、様々な場面で露出させていただくようになりました。先日は、オフィスのメインルームで1つのシーンを撮影してオンラインで新製品の発表を行いましたが、やはり絵になりますし、面白いことにチャレンジしている企業なんだと感じていただくきっかけになると思います。安曇野の本社だけではなく東京で私たちのやりたいことを発信できる、1つの素材にできたというところが良かったですね。

今後オフィスに出社する意義とは

――これからオフィスはどうなっていくと思われますか?

黒崎:必ずそこに行って働く場所ではなくなると考えています。何か目的を持って出社する場所になるでしょう。だからこそ、刺激を受ける場所、コミュニケーション・コラボレーションができるような場所になると思います。また、皆の心を1つに揃える場所というか、共通の価値観を共有できるような場所としての位置づけですね。特に新しいメンバーが入社する中で、最初から在宅だと会社の風土やポリシーが共有できる機会が少ないため、オフィスがその点で重要な役割・要素になってくると感じています。そのため、オフィスに我々の考え方が反映されていることが重要だと感じています。

――この度は貴重なお話をお伺いさせていただきありがとうございました。

 

編集後記

すぐ近くに六本木や赤坂の高層ビルがあるはずなのに、都会の喧騒を感じさせないゆったりとした時間が流れる落ち着いたオフィスでした。カウンターテーブル、ハイテーブル、アウトドアテーブル、集中ブース、3つの個室会議室、テラスと様々なシーンに合わせて使い分けができるような工夫が随所に見受けられました。テレワークがメインになったとしても、集まる・立ち寄れる・発信する・ポリシーを共有するなど、オフィスの役割はどんどんアップデートされていきそうです。

インタビュー・編集:服部 撮影:平井