五反田バレー発のシェアオフィス、「VENTURE MAFIA」始動。

 

品川区・五反田。数々の成長企業が集結し、新たなベンチャーの聖地「五反田バレー」としてのイメージが定着しつつあるこの街に、2020年2月、ふたりの若き経営者がシェアオフィスを立ち上げる。その名も、「VENTURE MAFIA(ベンチャーマフィア)」。一度でも聞いたら忘れることのできないこの名前の由来は、CEOの井門氏が、世界有数のIT大国であるエストニアを視察した際に目にした光景にある。

 

(井門)

エストニアのシェアオフィスには、驚かされました。中でも衝撃が大きかったのは、「LIFT99」という、ロシア軍の倉庫の跡地につくられたシェアオフィスです。ビリヤード台や卓球台が置いてあったり、ブランコが設置されていたり、わくわくするような楽しい環境になっていました。

もうひとつ衝撃的だったのは、「Wall of Fame」と呼ばれるボードです。成功をおさめたエストニアのスタートアップ企業のロゴが壁いっぱいに飾られていて、その上に「ESTONIANMAFIA(エストニアンマフィア)」と記されていました。この壁に名を刻まれることを目指して、スタートアップをつくる。エストニアのユニコーン企業がスターみたいになっているのが、めちゃくちゃかっこいいなと思いました。

エストニアでは、3人に1人が起業経験があります。ほとんどの人が起業したり、スタートアップに関わったりしていて、みんながエストニアンマフィアに憧れている。こんなふうに遊びながら働くことのできる環境が日本にも必要だなと感じて、エストニアンマフィアの名前を借りて、「VENTURE MAFIA」と名づけました。

 

エストニアは、大学内にも3Dプリンターなどの最新設備が充実したシェアオフィスを併設しており、学生が豊かな発想でものづくりを実現することができるという。起業に対する物理的・心理的ハードルの低さが、エストニアから数多くのユニコーンを輩出している。

 

(井門)

日本では、ぶっ飛んだ発想をしても、実際に起業や資金調達をしようというところまで考えられない。要するに、発想をかたちにするための「場」がないんですよ。なにか新しいことを考えたら、すぐ会社をつくることができて、資金調達を目指せるような環境にしていきたい。それが、VENTURE MAFIAの「コンサルティングサービス×シェアオフィス」の最初の軸になっている考え方です。

 

ひとことで「起業をする」といっても、税理士や社労士の手配、法務についてなど、面倒なことは多い。オフィスを借りるときに、会社経営に必要なサービスが含まれていれば、面白い事業づくりに専念することができる。だからこそ、本業以外にかける手間を減らすコンサルティングサービスをデフォルトにした。

井門氏と飯岡氏が手がける「VENTURE MAFIA」第一弾の五反田は、初めての起業をするアントレプレナーやフリーランス、友だちと会社をつくる人などをメインの利用者として想定している。個室についても、2名用から8名用と少人数に設定した。「誰もが100%の力を本業に集中できる環境構築」をコンセプトに、初めて起業する人でも簡単に会社を経営できる場を提供する。

 

井門氏自身はといえば、青山学院大学経営学部在学中より株式の運用をしており、起業や事業の立ち上げの経験がある。日本でも有数の大きな不動産会社「井門グループ」を実家にもつ井門氏は、幼少期から「おまえは不動産屋になるんだぞ」と言われて育てられたが、敷かれたレールを走ることを嫌い、「ハイリスク・ハイリターンで上を目指せる世界で戦いたい」という想いで株式トレードを始めたという。

大学卒業後、一度は有名な金融機関にトレーダーとして入社したものの、満足することができずに入社から2日後に退社。その後、自ら投資ファンドを起業した。そこで知り合ったあるエンジェル投資家との会話の中で「マッサージが好きだ」と話したところ、マッサージ店を出店することになり、300万円を投資する。それが、人生を大きく変える出来事になった。

 

(井門)

それまでやっていた株式トレードは、いわゆるギャンブル――カジノでお金を増やすこととほぼ変わりませんでしたが、事業をゼロからつくってサービスを世に出すことの楽しさに気づいたんです。自分の中でマインドが変わり、事業づくりをメインでやっていこうと決めました。

 

マッサージ店のあとも、寿司屋やアプリ開発など、事業の立ち上げをつぎつぎと経験。井門氏にとって、事業づくりの楽しさとは何だったのだろうか。

 

(井門)

寿司屋しかりアプリしかり、世に出たら、誰かが体験しますよね。感動してもらえれば、リピートしてくれて、お金も払ってくれる。こんなに楽しいことはないと思います。他業種に詳しくなれるというのも魅力ですね。たとえば、お寿司屋さんの裏側って、普通に過ごしていたら分からないじゃないですか。でも、実際にやってみると本質に気づくことができる。自分の知識も増えていきます。

ベンチャー投資をやっていると面白いのが、自分の投資先どうしで相乗効果が生まれることです。その経験を何回もして、それがベンチャー投資の醍醐味のひとつだなと感じたときに、自分の投資先がどんどん相乗効果を生んでいくような環境づくりをやっていきたいと思いました。良い相乗効果が生まれたり、お互いを高めあえたりするのがどういう場所か考えていたら、シェアオフィスに行き当たったんです。

 

一方で、共同経営者である飯岡氏は、井門氏とは正反対の一般的な家庭で生まれ育ったという。小学校からスポーツをしており、高校・大学はラグビーひと筋の、いわゆる「体育会系の学生」。就職活動では伊藤忠商事に内定し、そのまま入社した。「まじめで、勉強がそこそこできるけれど専門性があるわけではない、ありきたりな学生」と自身を評する。井門氏とは高校・大学の同級生で、就職後も親しく過ごした。

 

(飯岡)

伊藤忠のオフィスは外苑前にあるのですが、彼(井門氏)がトレーダーをやっていた場所が、オフィスの隣にある「アラマンダホテル」内のコワーキングスペースだったんです。ホテルのスパで、一緒にサウナに入ったりすることもありました。

そのとき、彼がファンドを運営したりベンチャー投資をしたりしているという話を聞いていて、「すごいな」と。僕は社会人一年目のときに投資系の部署にいたのですが、地味な仕事もけっこう多くて、自分のやっていることと彼のやっていることのギャップを感じて、憧れみたいなものはありましたね。

そんな中、「一緒に事業をやらないか」と声をかけてもらって。それまで僕はずっとレールの上を生きてきて、一度も外れたことがなかったので、「伊藤忠を辞めてベンチャーをやる」というのは僕の中のセオリーとしては”ナシ”だったんですよね。でも、たぶん彼の性格や行動力に惹かれて、気づいたら今ここにいます。

 

井門氏は、VENTURE MAFIAを「第二の家のように使ってほしい」と語る。

 

(井門)

シリコンバレーやエストニアのシェアオフィスを見ると、みんな土日にもオフィスに来て、ビリヤードをプレーしたり、テレビゲームで遊んだり、ソファで寝たりしているんですよ。そうやって家みたいに使っているからこそ、入居者どうしが顔をあわせて「一緒にビリヤードやろうぜ」という軽いノリで仲良くなり、そこから新しい事業やビジネスが生まれる良い循環ができると思っています。VENTURE MAFIAも、1Fはラウンジスペースになっていて、ソファがあったりコーヒーが飲めたり、目的もなく過ごせる場所にしていくつもりです。

また、シェアオフィスの中にスペシャリストを呼び込んで、入居者に刺激を受けてもらいたいとも思っています。VC(ベンチャーキャピタル)やエンジェル投資家は、ゼロから起業した人にとっては手に届きづらい存在ですが、VENTURE MAFIAでは彼らに相談できたり気軽に話しかけたりできるようなしくみを用意しています。

 

VCやエンジェル投資家の目に入らず、起業したはいいものの、伸び悩んでしまうスタートアップは多い。VENTURE MAFIAは、家に帰るようなつもりでドアを開ければ、そこに感度の高い投資家たちが集まる。彼らと肩肘を張らずに楽しく話しながら、新しい知識や経験、そしてチャンスを得られる場所になるだろう。

 

(井門)

エンジェル投資家って、意外と時間があるんですよ。だから、オフィスを「家」にしてしまえば、「五反田でスタートアップの打ち合わせしたあとに暇だから来た」というようなことが起こりうるんですよね。ローコストで、誰でも行ける「家」のような場所。じつは、それがすごい価値になると思っています。

(飯岡)

VCが運営するシェアオフィスは、ややクローズドな世界観が形成されていると感じます。不動産会社が運営するところは、きっちり区分けされたレンタルオフィスというイメージがある。VENTURE MAFIAは、VCを含めたさまざまな入居者を広く受け入れる体制で、誰の色がつくわけではない、みんなが気軽に入ることのできるシェアオフィスを目指したいと思います。

 

誰もが簡単に起業して、簡単に事業をつくり、世の中に出すことのできる未来。VENTURE MAFIAが実現を目指す未来は、五反田から始まる。築古のビルを一棟まるごとリノベーションして生まれ変わったオフィスのデザイン性の高さは、数々のシェアオフィスやコワーキングスペースを見てきた当社のスタッフの折り紙付きだ。内覧も受付中なので、起業への熱を胸にたぎらせている人は、ぜひその目で見てほしい。