総務省オフィス改革チームに問う、あたらしい時代の働き方とワークスペース。

 

 

Vol.3 総務省

東京都千代田区霞が関2-1-2

 

Power of the OFFICE Vol.3は、日本の社会基盤を支える総務省のオフィスをピックアップ。
官公庁のオフィスを想像したとき、どのようなイメージが浮かぶでしょうか。山積みの書類、役職ごとにずらりと並んだデスク、モノクロームの内装。たしかに、それが従来の姿でした。
2015年。総務省では、最初の取り組みに着手するとともに、若手職員を中心に「オフィス改革チーム」を組織。フロアごとに順次おこなったオフィス改革によって、業務効率は大幅に改善され、職員満足度も向上したそうです。最近では、Activity Based Working の考え方を取り入れた実証実験を進めているとのこと。

 

ワンフロアを見渡すことができ、会議スペースも広く設けられたワークスペースには、業務の相談のキャッチボールの声が適度に聞こえてくる。大きな窓からは光が入り、オフィス全体はとても明るい。

 

Activity Based Workingとは?

Activity Based Working(以下、ABW)とは、業務内容やシチュエーションによって働き方を選ぶ働き方によって、生産性の向上を図ろうという考え方。近年、オフィスデザインに取り入れる企業も増えてきており、より効率的で自由度の高い働き方を目指す流れが目立っています。

 

総務省のオフィス 具体的な課題とそれに対する取り組み
  • 資料を「紙」で管理する文化

目的の資料を探すための膨大な時間的コスト / 資料を印刷するための金銭的コスト / 自席でなければ仕事ができない / スペースをとる書類保管場所

➡ 両脇に引き出しがあるデスクから、引き出しのまったくないデスクへのダウンサイジング等により、ミーティングスぺ―スは従来の約3倍に。省スペースとコミュニケーションの増加を実現。また、資料の電子管理を基本としたり紙資料の重複を整理したりすることで、自席と紙の山から解放され、テレワークも含めて働く場所が自由に選択できるように。

  • 窓側に管理職を配置した役職順のデスク

上司クリアの過程での手戻りの発生 / コミュニケーション阻害

➡ グループアドレス化。コミュニケーションがとりやすくなったことでチーム内の作業状況を把握しやすくなり、急を要する事案にも臨機応変な対応ができるようになった。また、こうした環境を生かして、作業開始前に管理職も含めて対処方針を相談するようになり、作業の手戻りが減少。

 

これら若手中心に進められたオフィス改革は、働き方についての組織全体の意識も変え、現在では他の省庁や民間企業も視察に訪れるようになっています。テレワークの活用などを含め、シームレスな働き方をめざす総務省オフィス改革チームの皆さまに、働きやすい場所づくりとこれからのオフィスの在り方について聞きました。

 

(左から)総務省行政管理局 小池 紗恵子さま、山内 亮輔さま、榊原 美月さま

 

 

ボトムアップで浸透させた「改革」 慎重派との向き合いかた
―― 最近取り入れられているABWの実践に際して、若手職員の皆さまが中心となって取り組みを進められたとのことですが、当時どのように意見の吸い上げをおこなっていったのですか。

山内さま(以下、山内):ABWの実証実験は、総務省としてオフィス改革を進める中で、課長以下の一般クラスの職員がのびのびと働ける空間づくりを目指して始めました。

 

 

ABWの実証実験より以前に、これまでオフィス改革を進めてきたときにも当然、引き出しなどの既存の紙資料を置くスペースがなくなるということで、一部の方から「どうして今進める必要があるのか」といった意見をいただきました。

皆それぞれ仕事に対してのこだわりやスタイルがあるのは事実です。民間のオフィス見学の際に改革慎重派の人を率先して連れて行ったり、局の予算係や総括係がプロジェクトの中心となって、各課のフロア利用者全体からの意見の吸い上げをおこなったりしました。私たちチームには、キーパーソン(課長)の強い意志がありました。

オフィス改革後、だんだんと、「このスタイルになって仕事がやりやすくなった」「誰が何をしているのか分かるようになった」「打ち合わせスペースができて話しやすくなった」「画面で資料が確認できるから紙で印刷しなくて済むようになった」などポジティブな意見も出るようになってきました。その中でも、「一人で集中するスペースがほしい」とか「人目から離れて会議をする場所もほしい」などABWに即した要望も出てきた中で、2019年に入ってから、オフィスの一部をさらに新しくしました。

 

柔らかい素材のパーテーションで目隠しされたソファ型のミーティングスペースは、まわりの人の視線が気にならない。限られた人たちで軽く打ち合わせをしたいときなどに重宝しそうだ。

 

現在、効果測定として、実験の前後の意識調査や行動調査をおこない、職員の働き方の変化やスペースの使用率などを見て整理しています。単純に「きれいなオフィスができてよかった」というわけではなくて、このオフィスになったことによって実際に仕事のしかたや働く人の満足度が改善されたのかどうかを調べた上で、さらに私たちの仕事の価値を高める取り組みを進めることが、このプロジェクトの目的です。

 

―― ABWの成功には、自席にいない部下の仕事をどう把握するかなど、管理職のマネジメントスタイルも変化を迫られそうですね。導入時、そこに課題はありましたか。また、あればどのようにそれを解決しましたか。

 

 

小池さま(以下、小池):私の勤務するフロアでは、毎週月曜日の朝にチームごとに管理職を含むメンバーで打ち合わせをおこなうことで、誰がどのような仕事をしているかをチーム全員で共有できるようにしています。

 

 

山内:とはいえ、管理職の方からは、「部下が在席しているときに比べて、コミュニケーションがとりにくい」といった反応もあるかもしれません。なぜ心配になるのかという原因を突き詰めていくと、「必要な時点までに必要な仕事がなされるのか心配」「話しかけたいときに席にいないので大変」というものが多いと思います。私たちの場合は、スケジューラーをしっかり活用してお互いに日程を共有すること、通話とチャット用のコミュニケーションツールを積極的に使用することなどで対応しています。

そもそも、部下のことを四六時中ずっと観察しているということはなく、成果物の確認の中で実際のマネジメントがなされてきたと思うんですね。業務の目標を共有した上で成果の確認をすることがマネジメントの本質であって、それは部下が目の前に座ってなくともできるということが実感できれば、コミュニケーションのしづらさは薄れてくるのかなと思います。もっとも、これは管理職だけでなく、チーム全員が貢献する必要があります。

 

テーブルといえば円形や長方形が基本だが、このパズルのようなミーティングテーブルは、デッドスペースを生むことなく使うことができる優れモノ。とにかく、人が集まって話せる場所が多いのが印象的だ。

 

―― 一般企業においても、オフィスづくりをする場合に効果測定のアンケート等をされることがありますが、従業員の声もわかり、良い取り組みですね。

山内「こういう働き方であってほしい」という経営者の想いや、職員が思う働きやすさ、これらと実際のオフィスの使い勝手には、少し乖離があると思います。今現在どういう位置にあるかを見えやすくした上で、上下関係の垣根を超えたコミュニケーションがある状態でオフィス改革をおこなうことで、満足度も上がるのではないでしょうか。

榊原さま(以下、榊原):私たちの場合は、何度か効果測定のためのアンケートを実施しています。アンケートを採ることで、それまでなんとなく各人が感じていた「働きやすくなったな」「効率が良くなったな」という実感が数値として反映されるので、より取り組みの意義を職員に感じてもらいやすくなります。

また、対外的に、多様な働き方、効率の良い業務の進め方を推進する活動をしているため、意義や効果をわかりやすく伝えられるという点においても大事ですね。

 

 

 

働き方を選べる時代、これからのオフィスの役割
―― 視察や意見効果に来られる企業から出てくる課題には、どういったものがありますか。

山内:「改革をどのように進めたのか」「ペーパーレスでどうやって働いているのか」というような質問が多いですね。

 

 

榊原:フリーアドレスやペーパーレスに対する抵抗が大きい上の世代など、慎重派をどういうふうに説得するのかなどの質問もあります。「上を連れてもう一度見に来たいんですが、いいですか?」と言われることもありますね。

 

デスクの上に紙の山などはなく、整頓された印象。

 

―― 今後、オフィスの在り方はどのようになって変化していくと思いますか。

 

 

小池:現在は、オフィス改革チームが主導して進めていますが、今後はひとりひとりが自分の働く場所や働き方をカスタマイズできるようになっていくのがいいなと思いますし、そういうふうになっていくのではないかなと思います。

 

 

山内「この働き方をあの働き方にする」というわけではなくて、各個人がニーズに合わせた働き方を選べるというのが、能率的な仕事のあり方だと思います。すべてのニーズを満たすのは難しくとも、いかに意見を聞き、それを実現させられるかだと思っています。実際に働く人のニーズベースで考えていかないといけませんね。

 

 

榊原:比較的簡単にテレワークができるような環境になりましたが、その分、オフィスで話しながら仕事をすることに対するメリットも感じています。オフィスの意義は、どこでも仕事ができるようになったとしても、さまざまな立場にある人みんなで話しながら仕事を進められるところにあるのではないでしょうか。

 

 

山内:オフィスはかつて、「事務作業をするための場所」という機能が中心でした。自宅などでも仕事ができるようになった今、物理的なオフィスの意義を考えると、やはり顔を突き合わせて議論ができることや、その中で信頼関係の構築やチームビルディングができることだと思います。こうした環境のもとに、職員の多様性も広がり、そして受け入れられていくでしょう。

集まって語り合う中で、仕事の質が磨かれていく。新しいものやアイディアを出すときに、目線の違う人同士がワイワイガヤガヤと意見を交わすということで、アイディアの質が磨かれていく。“事務作業をするための場所”というオフィスの考え方が後退していくのであれば、”集まり、話し合うための場所”としての機能に重点が置かれるようになり、会議室が本体で執務室はおまけというような位置づけに変わってくるのかなと思います。

 

日本の中枢機能が集積する霞が関のビル群と、緑の並木道。

 

総務省行政管理局は、各省庁の業務プロセスや働き方の改革についての提案や支援をする中で、働き方改革に取り組んでいる民間企業との意見交換をおこなっております。現在の働き方やオフィスに課題を感じている企業は、ご相談されてみてはいかがでしょうか。